訪問看護ステーションの開業準備で、最後まで手つかずになりやすいのが請求です。

物件・人員基準・資金計画・指定申請までは、解説記事も行政の手引きも丁寧に扱います。ところがサービスを始めた翌月から毎月やってくる請求について、誰がどう回すのかを扱ったものは見当たりません。実際には、指定を受けただけでは算定できない加算があり、届出の提出先と期限は医療保険と介護保険で違い、最初の入金までは2か月かかります。しかもその多くは、指定日が決まった時点で動き出さないと間に合いません。

この記事では、開業してから請求が回り出すまでに何が起きるのかを、告示・通知・省令にあたって整理しました。事務職員を雇うか、管理者が兼務するか、外に出すかという判断についても、公的統計の数字だけで材料を並べます。

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知りたいこと 該当箇所
開業時にどの届出を、どこに、いつまでに出すのか 3章 二系統ある届出
指定を受ければ加算は算定できるのか 2章 みなし指定と届出
医療保険で請求するのか、介護保険で請求するのか 6章 給付調整と指示書
最初の入金はいつか・運転資金はいくら要るか 5章 入金までのスケジュール
事務員を雇うべきか、外注すべきか 7章 判断の分岐点
開業前にやることを一覧で見たい 8章 決めておくこと

1. 開業後の訪問看護のレセプト請求は誰がやるのか

請求事務を担う方法は3つです。事務職員を雇う、管理者や看護師が兼務する、外部に委託する。

実態としては、雇う側に大きく傾いています。全国訪問看護事業協会の調査(8,543事業所に配布し3,504事業所が回答)では、業務効率化の取組として「事務職を雇用し、看護職員の事務処理の負担を軽減」を導入済みと答えた事業所が70.9%。一方で「経理や総務を外注(アウトソーシング)」の導入済みは17.2%でした。

同じ調査で「訪問看護記録の電子化」は83.4%が導入済みです。記録をデジタルにすることには抵抗がないのに、事務そのものを外に出すという選択は4分の1以下にとどまります。

どちらが正しいという話ではありません。判断を分けるのは請求件数と、事務職員という人件費の性質です。それを見る前に、制度の側から確認しておくことがあります。指定と届出は別物だという点です。

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2. 指定を受けても、届出をしなければ加算は算定できない

介護保険の指定居宅サービス事業者(訪問看護)の指定を受けると、健康保険法第89条第2項により、医療保険側の指定訪問看護事業者の指定も受けたものとみなされます。いわゆる「みなし指定」です。窓口が二重にならず、申請も一度で済みます。

ただし無条件ではありません。管理者要件と人員要件を満たしていること、そして事業者が別段の申出をしていないことが前提になります。

ここで取り違えが起きます。自動になるのは指定であって、加算の届出ではありません。

2-1. 実際に起きたこと

厚生労働省保険局医療課が地方厚生(支)局医療課あてに出した事務連絡(平成25年12月24日「訪問看護療養費に関する訪問看護ステーションの基準に係る届出等の取扱いについて」)に、この取り違えの記録が残っています。

無届出のまま算定されていたのは、次の5項目でした。

  • 訪問看護基本療養費(Ⅰ)ハ 若しくは(Ⅱ)ハ
  • 精神科訪問看護基本療養費
  • 24時間対応体制加算
  • 24時間連絡体制加算
  • 特別管理加算

同事務連絡は、地方厚生(支)局に対して対象となる事業者へ連絡して必要な手続きを指導すること、届出書と別紙資料を平成26年2月28日までに提出させることを指示しています。そのうえで、提出された書類により基準に適合していることが確認できた場合には、無届出で算定を開始した時点をもって届出を受理したものと認める、という取扱いを示しました。

注意したいのは、これが当時の特例だという点です。同じことが今起きたときに同じ救済があるとは限りません。届出は算定の前提であり、後追いで整えるものではないという前提で組んでおくのが安全です。

この5項目のうち精神科訪問看護基本療養費は、加算ではなく基本療養費そのものに届出が要るという珍しい例です。しかも別紙様式1は看護師等の氏名・経験・研修を職員ごとに書く構造なので、採用や退職のたびに実態とずれます。届出の中身と管理の仕方は精神科訪問看護基本療養費の記事で扱いました。

自立支援医療(精神通院医療)を扱うなら、これとは別に指定自立支援医療機関の指定申請が要ります。提出先は都道府県または政令市で、地方厚生局への届出とは窓口も締切も別です。有効期間は6年で、さかのぼっての適用はできません。→訪問看護の自立支援医療|上限額管理票の記入と公費の優先順位

2-2. 算定開始日を決めるのは「受理日」

届出をいつ出すかも報酬に直結します。保医発0305第9号「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」は、こう定めています。

各月の月末までに受理したものはその翌月から、月の最初の開庁日に受理した場合は、当該月の1日から当該療養費を算定すること

基準は受理日です。投函した日でも、消印の日でもありません。月末ぎりぎりに郵送して翌月にずれ込めば、算定開始は1か月遅れます。

そしてこのルールは、医療保険の話です。介護保険は別のルールで動きます。

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3. 届出は二系統ある — 提出先も期限も違う

訪問看護の加算の届出は、一本ではありません。

医療保険 介護保険
届出の名称 訪問看護ステーションの基準に係る届出(施設基準) 介護給付費算定に係る体制等に関する届出(体制届)
提出先 地方厚生(支)局長 都道府県知事または市町村長(指定権者)
算定開始日 月末までに受理→翌月から。月の最初の開庁日に受理→当月1日から 毎月15日以前→翌月から。16日以降→翌々月から
対象の例 24時間対応体制加算、機能強化型訪問看護管理療養費、特別管理加算、精神科訪問看護基本療養費 緊急時訪問看護加算、特別管理体制、ターミナルケア体制、看護体制強化加算、サービス提供体制強化加算、専門管理加算、口腔連携強化加算

介護保険側の根拠は、平成12年3月1日老企第36号の第一の1⑹(届出に係る加算等の算定の開始時期)です。令和6年3月15日改正で⑵に「電子情報処理組織による届出」が追加されたため、それ以前の版で⑸だった項番が⑹に繰り下がっています。古い版を引いている資料と項番がずれる点に注意してください。

届出に係る加算等(算定される単位数が増えるものに限る。以下同じ。)については、適正な支給限度額管理のため、利用者や居宅介護支援事業者に対する周知期間を確保する観点から、届出が毎月一五日以前になされた場合には翌月から、一六日以降になされた場合には翌々月から、算定を開始するものとすること。

括弧書きのとおり、このルールがかかるのは算定される単位数が増えるものに限られます。加算の届出はここに含まれます。

医療保険の感覚で「月末までに出せばいい」と構えていると、16日に出した体制届は翌々月まで算定できません。緊急時訪問看護加算やサービス提供体制強化加算を2か月分取り逃すことになり、後から遡ることもできません。

自治体によっては消印ではなく必着で運用しています。茨城県は「届出の締切は当日必着です。(郵便の消印日ではありません)」と明記しています。

3-1. 新規指定のときは、窓口に先に聞く

開業時に効いてくるのがここです。

新規指定の場合、指定申請と体制届を同時に出せば指定日から算定できるとしている自治体があります。茨城県は「事業所の新規指定申請と同時に届出を提出してください。要件を満たす加算等については、指定を受けた日から算定可能です」としています。一方で兵庫県は「指定申請書を提出済みであるが、指定されていないサービス事業種類がある場合には、今回の届出では記載せず、指定通知を待って届出書を提出してください」と案内しています。

老企第36号に新規指定時の特則は置かれていません。つまりこれは全国一律のルールではなく、指定権者ごとの運用です。

指定申請の書類を用意する段階で、窓口に「体制届はいつ出せば指定日から算定できるか」を確認してください。ここを確認せずに指定後に出すと、15日と16日の線引きによっては開業月と翌月の加算がまるごと算定できません。

開業前後の届出は、医療保険と介護保険で締切が別々に走ります。 ainaruでは、届出のカレンダーづくりから初回請求の立ち上げまでを、レセプト代行の一部としてお引き受けしています。 → 訪問看護のバックオフィス代行について

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4. 開業時に出せる届出、出せない届出

ここからは医療保険の施設基準届出の話です。令和8年6月改定で訪問看護管理療養費の区分が再編され、新しい療養費・加算が加わりました。実績要件のあるものとないものがあり、開設したばかりの事業所が出せるかどうかは項目ごとに分かれます。

保医発0305第9号の要件のうち、過去の実績期間を求めるものだけを抜き出したのが次の表です。

届出項目 過去の実績を求める要件 開設初年度
機能強化型訪問看護管理療養費1 ターミナルケア件数が前年度20以上/前年度15以上かつ15歳未満の超重症児等が常時4人以上/超重症児等が常時6人以上(いずれか)。加えて直近1年間の人材育成研修の実施と、直近1年間の情報提供・相談対応の実績 出せない
機能強化型訪問看護管理療養費2 ターミナル件数が前年度15以上/前年度10以上かつ超重症児等が常時3人以上/超重症児等が常時5人以上(いずれか)。加えて1と同じ直近1年間の2要件 出せない
機能強化型訪問看護管理療養費3 直近3月の退院時共同指導加算の算定実績。加えて直近1年間の地域の保険医療機関の看護職員による勤務実績、直近1年間の研修2回以上、直近1年間の情報提供・相談対応の実績 出せない(最短でも約1年)
機能強化型訪問看護管理療養費4 直近3月の退院時共同指導加算の算定実績。加えて直近1年間の研修2回以上、直近1年間の情報提供・相談対応の実績、連携機関5以上と年3回以上の面会 出せない(最短でも約1年)
包括型訪問看護療養費 直近1年間に地域の保険医療機関や訪問看護ステーションと合同で実施する研修や事例検討会を2回以上 出せない
24時間対応体制加算 なし(体制要件のみ) 開設時に出せる
訪問看護医療情報連携加算 なし。診療情報等を共有している連携機関(特別の関係にあるものを除く)が5以上 連携先の確保しだい

機能強化型は1から4まで、どれも直近1年間の研修実施や情報提供の実績を求めています。ターミナルケア件数のように選択肢が用意されている要件もありますが、この直近1年間の要件が全区分に入っているため、機能強化型は開設初年度には届け出られません。

同じ表にある包括型訪問看護療養費の算定要件・点数・届出の詳細は、包括型訪問看護療養費|算定要件・点数・届出で整理しています。

3と4は「直近3月の退院時共同指導加算の算定実績」という要件が目を引くので3か月で届け出られるように見えますが、同じ基準の中に直近1年間の要件が並んでいます。短いほうの期間だけを見て準備すると、届出のタイミングを読み違えます。

なお令和8年6月改定では、月の2日目以降の訪問看護管理療養費1と2が統合され、施設基準の届出が不要になりました。届出が増えた項目だけでなく、要らなくなった項目もあります。

4-1. 24時間対応体制加算は開設時に出せる

表の中でひとつだけ性格が違うのが24時間対応体制加算です。保医発0305第9号が定めるのは、営業日以外の日や営業時間外に、利用者や家族からの電話等による連絡・相談を直接受けられる体制が整備されていること。過去の実績は問われません。

体制さえ組めていれば開設時から届け出られます。逆に言えば、体制はあるのに届出を出していない状態では算定できません。2章の事務連絡で無届出算定の対象になっていたのも、この加算でした。

機能強化型を将来目指す場合にも効いてきます。機能強化型1と2はいずれも要件のひとつに「24時間対応体制加算を届け出ていること」を挙げています。開設時の届出が、数年先の選択肢につながります。

機能強化型1〜4の要件と、実績要件を満たせるようになってからの届出の出し方は機能強化型訪問看護管理療養費|4の新設と要件・届出で整理しています。

4-2. 実績が溜まった月に、自動で算定が始まるわけではない

実績要件のある届出は、要件を満たした月から自動的に算定できるようになるものではありません。実績が要件を満たしたあとに届け出て、受理されてはじめて算定が始まります。2章の受理日ルールがここにも効きます。

届出を出し忘れて算定できたはずの加算を取り逃すパターンは、加算の算定漏れと遡及請求の期限で扱っています。加算そのものの算定要件は、特別管理加算の対象者と医療・介護の違い緊急訪問看護加算と緊急時訪問看護加算の使い分けにまとめました。

どの加算に届出が要るかを医療保険・介護保険まとめて確認したい場合は、訪問看護の加算一覧・早見表の届出欄が使えます。

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5. 訪問看護の開業後、初回入金までのスケジュール

開業の資金計画で見落とされやすいのが、サービスを提供してから現金が入るまでの時差です。

この章は入金までの全体像です。翌月1日〜10日の日次の段取り・オンライン請求の始め方・給付管理票の保留への対応まで踏み込んだ実務は、深掘り版の訪問看護の初月請求の記事で扱っています。

5-1. 請求経路は3本ある

まず請求先を整理します。訪問看護の請求は、保険の種類によって提出先が分かれます。

請求の種類 提出先 支払の目安
医療保険(健康保険組合・協会けんぽ・共済など被用者保険) 社会保険診療報酬支払基金 診療月の翌々月20日から24日ごろ
医療保険(国民健康保険・後期高齢者医療) 国民健康保険団体連合会 都道府県ごとに定めがある(静岡県国保連は毎月25日を振込基準日)
介護保険 国民健康保険団体連合会 サービス提供月の翌々月末

「医療保険は支払基金、介護保険は国保連」ではありません。訪問看護は後期高齢者医療の利用者が相当数を占めるため、医療保険分でも国保連あての請求が発生します。

支払基金の支払予定日を見ると、時差の大きさがわかります。令和8年2月診療分の支払予定日は令和8年4月21日。以降も5月21日、6月22日、7月22日と、20日から24日ごろに設定されています。

請求は毎月5日から10日の間(受付・事務点検ASPを利用する場合は当月12日まで)。介護保険はサービス提供月の翌月10日までに国保連へ提出します。

入金日は請求経路ごとに違います。 開業直後は利用者の保険種別が偏ることもあるため、資金繰りを組むときは提出先それぞれの支払予定日で確認してください。

5-2. 請求するための準備にも時間がかかる

時差はもうひとつあります。請求できる状態になるまでの準備期間です。

医療保険の訪問看護では、令和6年6月からオンライン資格確認とオンライン請求が始まりました。厚生労働省の案内資料によれば、医療機関等向け総合ポータルサイト上で行う申請は、アカウント登録、オンライン資格確認利用申請、オンライン請求利用申請、電子証明書発行申請の4つ。これに加えてネットワークの敷設、資格確認端末の搬入と設定、マイナンバーカードを読み取るモバイル端末の準備、レセプトコンピュータのソフト改修と動作確認が工程に入ります。ネットワーク敷設だけで申込から数週間から1か月程度かかると記載されています。

介護保険側も、国保連への請求には電子請求受付システムの利用申請と電子証明書の取得が必要です。

指定日から逆算して申請を始めないと、サービスは提供できているのに請求する手段が整っていない月が生まれます。その月の分は請求が後ろにずれ、入金はさらに1〜2か月遅れます。

開業から最初の入金まで、準備が整っていて約2か月。準備が遅れれば3か月、4か月と伸びます。

5-3. 最初の請求は返戻が出やすい

初回の請求では、事業所番号や利用者の保険情報の登録内容が請求データに正しく反映されているかがまだ検証されていません。ただし返戻の原因はそれだけではありません。

国民健康保険団体連合会が公表している返戻事由には、次のようなものが含まれます。

  • 市町村の認定情報が未登録、または認定有効期間外の被保険者
  • 要介護度とサービス内容の不一致
  • 区分支給限度基準額の超過
  • 居宅介護支援事業所が提出する給付管理票との不一致
  • 事業所基本台帳・サービス台帳への未登録

注目したいのは、原因の一部が自事業所の外にあることです。給付管理票由来の返戻は自分たちだけでは直せず、居宅介護支援事業所のケアマネジャーへ修正を依頼する必要があります。初回請求の担当を決めるときは、社内で誰がやるかだけでなく、外部に連絡を取る役割まで決めておくことになります。

返戻通知の読み方と再請求の手順は訪問看護のレセプト返戻の原因と再請求手順にまとめました。

5-4. 保険者からの入金だけが収入ではない

もうひとつ、利用者負担金があります。原則1割から3割の自己負担分と、交通費など保険外の費用です。

ここは保険請求と性質が違います。請求書を発行し、回収し、入らなければ督促する。回収の手段を用意していなければ、訪問した看護師が現金を預かることになります。

口座振替を使う場合、金融機関や収納代行会社への申込から利用開始までにどれだけかかるかは、事業者によって異なります。設立したばかりの法人は決算書がないため審査に時間を要することもあります。所要期間の一般的な目安を示した公的な資料は見当たらないため、利用を検討する金融機関・収納代行会社に直接確認したうえで、開業前から手続きを始めてください。

決めておくのは、回収方法、請求書の発行タイミング、未収が出たときの督促の担当。保険請求と同じ月初に締切が来るため、事務の負荷を見積もるときはこの分も足します。

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6. 医療保険と介護保険、どちらで請求するか

請求先を決めるのは利用者の年齢でも認定の有無でもありません。ここを取り違えると、請求先ごと誤って月単位でまるごと返戻になります。

6-1. 要介護認定があっても医療保険になる3類型

要介護認定を受けている利用者への訪問看護は、原則として介護保険です。ただし例外があります。訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等(平成18年厚生労働省告示第103号)の第四が、要介護被保険者等でも訪問看護療養費を算定できる場合を3つ定めています。

一 要介護被保険者等である利用者について指定訪問看護の費用に要する額を算定できる場合 (1) 特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を行う場合 (2) 特掲診療料の施設基準等別表第七に掲げる疾病等の者に対する指定訪問看護を行う場合 (3) 精神科訪問看護基本療養費が算定される指定訪問看護を行う場合

この振り分けを含め、別表第七・別表第八が何をどう変えるか(週4日以上・特別管理加算の金額・レセプトの「心身の状態」欄)は、訪問看護の別表7・別表8の記事で全項目を条文つきで整理しています。

特別訪問看護指示書は原則として月1回、交付の日から14日を限度に算定します。つまり同じ利用者の同じ月が、医療保険と介護保険に分かれることがあります。

この14日をどう数えるか、月をまたいだ月のレセプトに何を書くかは、特別訪問看護指示書|14日の数え方と月2回・レセプト記載に整理しました。

6-2. 指示書がなければ、そもそも請求できない

保険請求できるのは、主治医の訪問看護指示書がある期間の訪問だけです。有効期間は主治医が定めますが、最長6か月とされています。

開業直後は主治医への依頼から交付までのやりとりが固まっておらず、指示書が届く前に訪問を始めてしまうことがあります。この分は返戻ではなく、そもそも算定できません。損失がそのまま確定します。

利用者ごとに指示書の交付日と有効期限を管理する台帳を、初回訪問より前に作っておくことになります。

台帳に何の欄を作るかは、指示書のどこを確認するかで決まります。受領時のチェック項目と有効期間の数え方は訪問看護指示書とは|有効期間6か月・様式16と押印【R8.6】にまとめました。

6-3. 請求件数は利用者数と一致しない

訪問看護では利用者1人につき保険者へ月1件の請求が基本になります。ただし公費との併用、月途中の保険者変更、そして6-1で見た医療保険と介護保険の切り替わりがあると、1人で複数件になります。

事務量を「利用者数=請求件数」で見積もると、この分岐を数え落とします。

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7. 訪問看護の事務は雇うか、兼務か、外注か

ここからは判断材料です。数字はすべて公的統計から取り、推計にあたる部分はそう明記します。

7-1. 事務職員は人員基準に登場しない

指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)は、訪問看護について次のように定めています。

第60条は、指定訪問看護ステーションに置くべき看護職員を「常勤換算方法で、二・五以上となる員数」とし、うち1名は常勤でなければならないとしています。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は実情に応じた適当数。第61条は、事業所ごとに専らその職務に従事する常勤の管理者を置くことを求めています。

第61条にはただし書があり、管理上支障がない場合には、当該事業所の他の職務や、他の事業所・施設等の職務に従事できるとされています。管理者が請求事務を兼ねること自体は、この範囲で認められます。

事務職員についての規定は、ここにありません。

これは実務上ふたつの意味を持ちます。事務職員を置かなくても基準違反にはならないこと。そして事務職員の人件費は、配置義務に裏付けられていない純粋な固定費だということです。

7-2. 雇う場合にかかる費用は給与だけではない

事務職員を雇用すると、給与のほかに法定福利費の事業主負担が発生します。令和8年度の料率は次のとおりです。

保険 料率 事業主負担分
健康保険(協会けんぽ・東京都) 9.85% 4.925%
介護保険(40歳以上65歳未満) 1.62% 0.81%
厚生年金保険 18.300% 9.150%
雇用保険(一般の事業) 13.5/1000 8.5/1000
労災保険(その他の各種事業) 3/1000 全額事業主

合算すると、事業主負担はおよそ16%(40歳未満なら約15%)。年収に対して1.16倍前後が企業側の負担額になります。賞与にも同じ料率がかかります。この表には、全額が事業主負担となる子ども・子育て拠出金を含んでいないため、実際の負担率はこの分だけ上振れします。

仮に月給22万円・賞与年2か月とすると、年収308万円に対して法定福利費が約49万円。合わせて年357万円、月あたり約30万円です。ここに採用にかかる費用と、教育や労務管理の時間が乗ります。金額はあくまで仮定ですが、固定費の桁は見えます。

なお健康保険料率は都道府県によって異なり、労災保険率も事業の種類で変わります。自事業所の数字は協会けんぽの都道府県別料率表で確認してください。

7-3. 何件の請求を扱うことになるのか

判断の軸になるのが請求件数です。

1章で挙げた調査(3,504事業所が回答、回収率41.0%)によれば、1か月の訪問対象者の実人数は介護保険58.9人、医療保険36.1人で、合計95.0人。従業員の実人数は平均12.7人、うち看護職は6.7人でした。

平均的な規模で月およそ95件。開業直後で利用者が20〜30人なら、月20〜30件です。6章のとおり保険の切り替わりがあれば件数はこれを上回ります。

この調査は任意回答で回収率が41.0%であり、規模の大きい事業所ほど回答しやすい可能性があります。平均値は上振れしている前提で読んでください。

7-4. 分岐点はどこにあるか

3つの選択肢を、性質の違いで並べます。

事務職員を雇う 管理者・看護師が兼務 外部に委託
費用の性質 固定費(件数が少なくても発生) 追加の現金支出はなし 件数に連動しやすい
人員基準との関係 基準外。配置義務なし 看護職の時間を事務に充てる 基準外
件数が少ない時期 1件あたりの負担が重い 訪問件数が少なければ吸収可能 負担が件数に応じて小さい
件数が増えたとき 1件あたりの負担が軽くなる 訪問と請求が同時にピークを迎える 費用も増える

固定費は件数で割ると1件あたりの負担が下がります。月30万円を平均規模の95件で割れば1件あたり約3,100円、開業直後の30件なら約1万円。件数で割るという操作が何を意味するかは、この2つの数字の差に出ています。

兼務は現金支出こそ増えませんが、請求の締切と訪問のピークが重なるという性質があります。月初に請求を締めるとき、訪問も止められない。その時期に管理者が両方を抱えます。

既存事業所の選択は、雇用が70.9%、外注が17.2%でした。

7-5. 「内製化すればコストが下がる」が成り立つ条件

請求代行を内製化することでコストを削減できる、という整理を見かけます。件数がある水準を超えていれば成り立ちます。固定費を割る分母が大きいからです。

成り立たない条件もあります。件数が少ない時期、採用した事務職員が定着しなかった場合、そしてその人が退職して引き継ぎができなかった場合。事務職員1人の事業所では、その1人が抜けた瞬間に請求が止まります。

参考として、全国訪問看護事業協会が2001年4月から2024年8月までに廃止・休止した1,423事業所を分析した調査では、理由の1位が「従業員確保が困難」22.7%、2位が「管理者が退職した」17.6%でした。ただしこれは1章の70.9%とは別の調査・別の母集団で、事務職を雇った事業所が廃止しやすいことを示すデータではありません。この項目が指しているのも、事務職員ではなく看護職である可能性があります。

それでも、人を前提に組んだ体制は人が抜けたときに止まるという性質は変わりません。請求を知っているのが1人だけという状態をどこまで許容するか。ここが費用以外の判断軸になります。

事務として外に出せる範囲と、看護職が担わなければならない範囲の線引きは、訪問看護の書類作成代行で任せられる範囲で省令の作成主体規定まで含めて整理しています。採用以外の選択肢を含めた人手不足への対処は、訪問看護の人手不足対策と外注という第3の選択肢にまとめました。委託先の種類ごとの守備範囲や契約前に確認すべき項目は、訪問看護の事務外注|外注できる範囲とコスト比較・選び方で扱っています。

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8. 開業前に決めておくこと

ここまでの内容を、開業準備の順序に並べ直します。

届出のカレンダーを二系統で作る。 医療保険は地方厚生(支)局長あてで月末までに受理されれば翌月から。介護保険は指定権者あてで15日以前なら翌月、16日以降なら翌々月から。締切が別々に走るので、1枚のカレンダーに両方を書き込みます。新規指定時の体制届の取扱いは、指定申請の窓口に先に確認します。

請求システムの申請を先に始める。 医療保険のオンライン請求は、ポータルサイトでの4つの申請に加えて、ネットワーク敷設、端末の準備、レセプトコンピュータの改修が工程に入ります。介護保険側も電子請求受付システムの利用申請と証明書取得が必要です。指定日から逆算します。

利用者ごとの保険の振り分けと、指示書の管理担当を決める。 要介護認定の有無・傷病名・指示書の種類の3点で医療保険か介護保険かを確定させる手順と、指示書の交付日と有効期限を管理する台帳。どちらも初回訪問より前に要ります。

初回請求の担当を決めておく。 誰がデータを作り、誰が内容を確認し、返戻が来たら誰が原因を調べるか。給付管理票由来の返戻ではケアマネジャーへの連絡が要るので、外部とやりとりする役割も決めます。

利用者負担金の回収方法を決める。 口座振替を使うなら、審査を含む手続きの期間を金融機関や収納代行会社に確認したうえで、開業前から動きます。

運転資金を余裕を持って確保する。 入金は請求経路ごとに翌々月の20日過ぎから月末。準備が遅れればさらに伸びます。

記録から請求へのつなぎ方も、運用が始まる前に固めておくと後が楽です。運営指導では書類同士の突合が確認の中心になります。詳しくは訪問看護の運営指導対策と書類の突合にまとめました。

この6項目のうち、届出のカレンダーづくりと初回請求の立ち上げ、返戻対応は、ainaruでも代行しています。 開業前の段階からご相談いただけます。 → 訪問看護のバックオフィス代行について

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9. よくある質問

Q1. 介護保険の指定を受ければ、医療保険の訪問看護もすぐに始められますか。

指定については、みなし指定により医療保険側の指定訪問看護事業者の指定も受けたものとみなされます。ただし加算の届出は別で、地方厚生(支)局長への届出が受理されるまで、届出を要する基本療養費や加算は算定できません。

Q2. 介護保険の加算も、地方厚生局に届け出るのですか。

いいえ。介護保険の加算は指定権者(都道府県・市町村)への体制届です。提出先も期限のルールも医療保険とは別で、毎月15日以前の届出なら翌月から、16日以降なら翌々月からの算定になります。新規指定時の取扱いは自治体によって異なるため、指定申請の窓口で確認してください。

Q3. 開業した月から機能強化型訪問看護管理療養費は届け出られますか。

出せません。1から4のいずれも、直近1年間の研修実施や情報提供の実績を求める要件を含んでいるためです。3と4には「直近3月の退院時共同指導加算の算定実績」という要件もあり3か月で届け出られるように見えますが、同じ基準の中に直近1年間の要件が並んでいます。

Q4. 24時間対応体制加算は、体制さえあれば届け出なくても算定できますか。

いいえ。体制要件のみで実績要件はありませんが、届出が受理されていなければ算定できません。平成25年12月24日の事務連絡でも、無届出で算定されていた項目の1つとして挙げられています。

Q5. 事務職員を置かないと基準違反になりますか。

なりません。省令37号が定めるのは看護職員の常勤換算2.5以上と常勤専従の管理者で、事務職員の配置規定はありません。

Q6. 請求を外部に委託した場合、事業所には何が残りますか。

訪問看護計画書と報告書の作成は看護師等(准看護師を除く)が行うと省令に定めがあります(医療保険は指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準第17条)。看護記録も訪問した看護師等が記載します。

責任についても整理が要ります。請求内容が算定要件を満たしているかの最終的な責任は事業者に残ります。委託は責任の移転ではなく工程の分担なので、算定根拠を事業所側でどう残すかを委託の設計に含めておく必要があります。

個人情報については、外部に委託すること自体は制度上想定されています。個人情報保護法は委託にあたって委託先を必要かつ適切に監督することを求めており、実務では委託契約書に取扱いの範囲、再委託の可否、安全管理措置、事故時の報告義務を定めます。委託先を選ぶときは、この契約を交わせるかどうかが判断材料のひとつになります。

詳しい線引きは訪問看護の書類作成代行で任せられる範囲をご覧ください。

Q7. 開業時の運転資金はどれくらい見ておくべきですか。

金額の目安を示せる公的統計はありません。ただし時差の構造ははっきりしています。入金は請求経路ごとに診療月の翌々月20日過ぎから月末で、請求の準備が整っていなければさらに後ろにずれます。加えて利用者負担分の回収も、方法を決めて手続きが済むまでは入ってきません。人件費と家賃は初月から発生するため、収入ゼロの期間を何か月見込むかという形で逆算することになります。

Q8. 開業直後は請求件数が少ないので、管理者が請求まで行うのは現実的ですか。

件数の面では成り立ちます。利用者20〜30人なら月20〜30件です。判断が必要なのは件数が伸びたあとで、訪問の増加と請求の増加が同時に来ること、そして管理者以外に請求を知っている人がいない状態が続くことをどう扱うかです。

この章の出典


10. 請求事務を外に出すという選択肢

開業の準備は、指定が下りた日で終わりません。その翌月から、請求という締切のある仕事が毎月来ます。

二系統の届出が受理されているか。算定できる加算を取りこぼしていないか。利用者ごとの保険の振り分けは合っているか。請求データが記録と合っているか。返戻が来たときに原因まで戻れるか。どれも訪問の合間に処理する種類の仕事ではありませんが、専任の担当を置く余裕は開業直後ほどありません。

ainaruは、訪問看護の請求事務と書類作成の代行を行っています。開業したばかりの事業所や、これから開業する事業所からのご相談も承っています。届出のカレンダーづくりや初回請求の立ち上げからでも対応できますので、体制を決める段階でご相談ください。

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参考・出典一覧

厚生労働省

地方厚生局

社会保険診療報酬支払基金

国民健康保険団体連合会

自治体(指定権者)

全国訪問看護事業協会

その他