訪問看護は、令和8年6月から介護職員等処遇改善加算の対象になりました。これまで対象外だったサービスが新たに加わった形です。

そのため、いま出回っている処遇改善加算の解説の多くは、訪問介護など従来から対象だったサービスを前提に書かれています。加算Ⅰ〜Ⅳの選び方、キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅴ、経験・技能のある介護福祉士の年収440万円要件。訪問看護ではそのほとんどが不要です。

この記事は、訪問看護ステーションの管理者が「うちは何をすればいいのか」を判断できるところまで書きます。記述はすべて厚生労働省の告示・通知・Q&A、および都道府県の公表資料にあたって確認し、章ごとに出典を明記しました。

急ぎの方へ

いまの状況 進む先
加算Ⅰ〜Ⅳのどれを取ればいいのか分からない 1章 訪問看護は1.8%の一択
6月15日の期限を過ぎてしまった 3章 いまから算定を始める方法
いくら増えるのか知りたい 4章 金額の逆算
利用者の負担やケアプランへの影響が知りたい 4章 利用者負担と限度額
何を満たせば算定できるのか 5章 要件は2ルート
介護職員がいないので誰に配るか分からない 7章 配分の設計
医療保険の利用者が中心のステーション 8章 ベースアップ評価料との違い
何をどこに出すのか 9章 提出物と期限
返還が怖い 10章 返還を避ける運用

1. 結論:訪問看護は「1.8%の一択」です

最初にここを押さえてください。訪問看護に区分はありません。

告示(令和8年厚生労働省告示第87号)は、訪問看護費に「ヌ 介護職員等処遇改善加算」を新設し、イからリまでにより算定した単位数の1000分の18に相当する単位数を加算すると定めています。厚生労働省が公表している単位数の算定構造でも、訪問看護費の末尾に置かれているのは「ヌ 介護職員等処遇改善加算(1月につき +所定単位×18/1000)」の1行だけです。

つまり取るか取らないかの二択で、Ⅰ〜Ⅳを選ぶ場面がありません。

同時に新しく対象になったサービスと並べると、位置づけが分かります。

サービス 加算率
訪問看護・介護予防訪問看護 1.8%(1000分の18)
訪問リハビリテーション・介護予防訪問リハビリテーション 1.5%(1000分の15)
居宅介護支援・介護予防支援 2.1%(1000分の21)

従来から対象だった訪問介護など、介護職員が中心のサービスでは、加算率がこれよりはるかに高く設定されています。これは報酬に占める介護職員の人件費割合の違いによる設計上の差で、訪問看護の1.8%が低く抑えられているという話ではなく、そもそも別の計算で置かれた数字だと理解しておくと、社内で説明しやすくなります。具体的な加算率は区分ごとに細かく分かれているため、比較される場合は別紙1の加算率表をご確認ください。

訪問看護に不要な要件を整理しておきます。

よく解説されている要件 訪問看護で必要か
加算Ⅰ〜Ⅳの区分選択 不要(区分がない)
キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み) 不要
キャリアパス要件Ⅳ(介護福祉士の年収440万円) 不要
キャリアパス要件Ⅴ(サービス提供体制強化加算等の届出) 不要サービス提供体制強化加算自体は別途算定できます)
キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ ルートによる(5章
職場環境等要件 ルートによる(5章

介護福祉士の年収440万円要件は、訪問看護ステーションにとっては満たしようがない要件です。これが不要である点を最初に確認しておくだけで、検討の入口がかなり軽くなります。

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2. いつから対象になったのか

2-1. 施行は令和8年6月1日です

令和8年度の介護報酬改定は、3年周期を待たずに行われた期中改定です。改定率は+2.03%で、内訳は処遇改善分+1.95%、基準費用額(食費)の引上げ分+0.09%とされています。

施行日が2つあることに注意してください。

内容 適用
訪問看護等への対象拡大(新設分) 令和8年6月1日
基準費用額(食費)の引上げ 令和8年8月

正確に書くと、令和8年6月1日から適用されるのは「新設分」です。訪問介護など従来から対象だったサービスは、令和8年4月・5月分も引き続き処遇改善加算を算定しています(だからこそ後述する4月15日の期限があります)。「処遇改善加算そのものが6月に始まる」わけではありません。

新設分の適用日は、体制届の留意点通知(老発0313第5号)に「令和8年度介護報酬改定の実施に向けて、下記のとおり改正し、令和8年6月1日から適用することとした」と示されています。社会保障審議会介護給付費分科会の審議報告でも「令和8年6月施行とすることが適当である」とされていました。

訪問看護にとっては、令和8年4月・5月は加算率0%のままで、6月分から1.8%が乗ります。

なお同じ令和8年6月1日には医療保険側の診療報酬改定も適用されており、同一建物の人数区分の細分化など訪問看護に影響の大きい変更が入っています。そちらは「訪問看護の同一建物減算|判定と人数の数え方」で整理しています。

2-2. 対象に加わった根拠

審議報告(令和7年12月23日)に、次のように書かれています。

訪問看護及び介護予防訪問看護、訪問リハビリテーション及び介護予防訪問リハビリテーション並びに居宅介護支援及び介護予防支援を新たに介護職員等処遇改善加算の対象とすることが適当である

改定の概要でも「処遇改善加算の対象外だった、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援等について、新たに処遇改善加算を設ける」と明記されています。

なお、(介護予防)福祉用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売、(介護予防)居宅療養管理指導は引き続き対象外です。

2-3. 国の通知にも「訪問介護と同様」としか書かれていません

実務で戸惑う原因はここにあります。

算定の留意事項を定めた通知で、訪問看護費の「(31) 介護職員等処遇改善加算について」を見ると、本文は次の一文だけです。

訪問介護と同様であるので、2の(25)を参照されたい。

訪問看護に固有の記載はありません。 制度の側が「訪問介護の説明を読んでください」と案内している状態なので、訪問看護の管理者が訪問介護向けの解説を読まされることになるのは、ある意味で当然の帰結です。

この記事が訪問看護に絞って書き直しているのは、その一手間を省くためです。

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3. 6月15日を過ぎていても、まだ算定を始められます

この章がいちばん時間に関わります。

令和8年度の処遇改善計画書の提出期限としてよく案内されているのは、次の2つです。

状況 計画書の期限
令和8年4月・5月分の処遇改善加算を算定する事業者 令和8年4月15日
令和8年4月・5月分を算定せず、6月以降に算定する事業者 令和8年6月15日

条件の書き方に注意してください。分岐は「新規対象サービスだけを運営しているか」ではなく、令和8年4月・5月分の加算を算定するかどうかです。通知は6月15日の対象を「加算新設事業所のみが所属する事業者など、令和8年4月及び5月分は処遇改善加算を算定しない事業者」としています。従前から対象のサービスを持つ法人でも、4月・5月分を算定しないのであれば6月15日です。

どちらの期限もすでに過ぎています。ここで「今年度はもう無理だ」と判断してしまうことがありますが、そうではありません。

3-1. 通知の一般則に戻ります

上の2つは令和8年度に限った特例で、通知の一般則は別にあります。

介護職員等処遇改善計画書を(略)当該事業年度において初めて処遇改善加算を算定する月の前々月の末日までに、処遇改善加算を算定する介護サービス事業所等の所在する都道府県知事等に対して提出し

つまり7月以降に始める場合は、この一般則に戻って算定を開始する月の前々月の末日が基準になります。

一般則にあてはめた逆算

算定を開始したい月 計画書の提出期限(一般則)
9月分から 7月31日
10月分から 8月31日
11月分から 9月30日

体制届(介護給付費算定に係る体制等に関する届出)は、処遇改善加算に固有の期限ではなく、体制届の一般的な取扱いに従います。訪問通所サービス等は15日以前に受理されれば翌月から、16日以降なら翌々月から適用というルールなので、実務上は算定開始月の前月15日が目安になります(15日が休日の場合に前営業日とする取扱いの自治体もあります)。

3-2. ただし、この日付は指定権者によって違います

ここを飛ばさないでください。

同じ通知に、次の一文が置かれています。

なお、確認の事務に要する時間が十分確保できる場合等において、都道府県知事等は処遇改善計画書の提出期日を延長しても差し支えない。

7月以降の具体的な日付は、指定権者の裁量に委ねられています。 実際、公表資料を並べると割れています。

指定権者 7月以降の計画書の期限
大阪府 算定を開始する月の前々月の末日
埼玉県 算定を開始する前々月の末日
滋賀県 6月・7月開始は令和8年6月15日。8月以降が前々月の末日
大阪市 6月・7月開始は令和8年6月15日。8月以降が前々月の末日
兵庫県 前月15日(居宅系)/当月1日(施設系)
愛知県・東京都・北海道など 7月以降の記載なし

同じ大阪府内でも、府が所管する事業所と大阪市が所管する事業所で期限が違います。

滋賀県や大阪市が7月開始を6月15日にそろえているのには理由があると考えられます。一般則を7月開始にあてはめると期限は令和8年5月31日になり、新設分の適用日である6月1日より前になってしまうためです。

結論として、この記事の逆算表はあくまで通知の一般則にあてはめた目安です。 遅れて算定を始める場合は、必ず自事業所の指定権者の公表資料を確認し、記載がなければ問い合わせてください。 一般則より緩やかな期限を設けている自治体もあれば、厳しい自治体もあります。

もうひとつ、急ぐ理由があります。過ぎた月の分に遡って算定する仕組みはありません。 計画書は「算定する月の前々月の末日までに」の事前提出が原則で、体制届も「15日以前の受理で翌月から適用」という事前の届出です。判断を1か月先送りにすれば、その1か月分の加算はそのまま消えます。

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4. うちはいくら増えるのか

4-1. 計算式は単純ですが、母数に注意が必要です

加算額(単位)= その月の介護保険の訪問看護費の総単位数 × 18 / 1000

母数は「イからリまでにより算定した単位数」なので、基本報酬だけでなく各種加算を含めた合計に1.8%が乗ります。

介護保険側で取りこぼしている加算があれば、その分だけ母数も小さくなります。たとえば体制加算である緊急時訪問看護加算(介護)は、医療保険の緊急訪問看護加算と名前が似ていて取り違えが起きやすい加算です。3つの加算の違いは「訪問看護の緊急訪問看護加算|医療と介護で違う3つの加算を整理」で整理しています。また、利用者の状態に応じて対象かどうかが動く特別管理加算も、取りこぼしが起きやすい加算です。医療保険との対象者の違いは「訪問看護の特別管理加算|令和8年6月改定と医療・介護の違い」にまとめています。

そして母数は介護保険分だけです。 医療保険(訪問看護療養費)で算定した分には乗りません。ここが訪問看護に固有の事情で、医療保険の利用者比率が高いステーションほど、加算による増収は小さくなります。(なお医療保険側では、物件費の高騰に対して届出不要の訪問看護物価対応料が令和8年6月から別枠で措置されています)

計算例です。1単位10円の地域を前提にしています(地域区分によって単価が異なります)。

月の介護保険分の総単位数 加算額(単位) 月額の目安 年額の目安
50,000単位 900単位 約9,000円 約10.8万円
100,000単位 1,800単位 約18,000円 約21.6万円
200,000単位 3,600単位 約36,000円 約43.2万円

参考までに、指定訪問看護ステーションの訪問看護費は、20分未満が314単位、30分未満が471単位、30分以上1時間未満が823単位、1時間以上1時間30分未満が1,128単位です。30分以上1時間未満の訪問を月120回行った場合の基本報酬は98,760単位で、これに各種加算が乗ります。

4-2. 「月1万円の賃上げ」との距離を先に把握しておく

厚生労働省は今回の改定を「介護職員のみならず、介護従事者を対象に、幅広く月1.0万円(3.3%)の賃上げを実現する措置」と説明しています。訪問看護等への加算新設も、この措置に含まれるものとして並べて示されています。

ただしこれは制度全体としての目標であって、個々の事業所で職員1人あたり月1万円が増えることを意味するものではありません。 訪問看護の場合、加算率が1.8%であること、母数が介護保険分に限られることの2点で、実際の原資は小さくなります。

上の表の中央のケース(介護保険分が月10万単位。医療保険の利用者は別にいる想定です)で考えると、加算額は月約18,000円です。常勤換算5人のステーションなら、単純に割って1人あたり月3,600円程度になります。職員数が多いほど1人あたりは薄まります。

もうひとつの見方もあります。令和7年度介護事業経営概況調査によれば、訪問看護の給与費は収入の70.1%(令和6年度決算)です。加算は介護報酬の1.8%なので、介護保険分の給与費に対しては2.5%前後に相当する計算になります。医療保険分の収入も合わせた給与費全体で見れば、この割合はさらに下がります。

この数字を先に出しておくことをおすすめします。 「処遇改善加算が始まる」という情報だけが職員に伝わると、月1万円の賃上げを期待されることがあります。実際の原資を最初に共有しておくほうが、あとの説明が楽になります。

4-3. 利用者の負担も増えます。ケアマネジャーへの一言も忘れずに

事業所の増収の話だけで終わらせられないのが、この加算の実務です。

加算は所定単位数に上乗せされるため、利用者の自己負担(1〜3割)にもそのまま反映されます。 30分以上1時間未満(823単位)の訪問を月4回受けている利用者なら、母数は3,292単位で加算はおよそ59単位。1割負担・1単位10円の地域なら月60円前後の負担増が目安です。金額は小さいものの、説明のないまま請求額が変わればトラブルのもとになります。重要事項説明書の料金表を差し替え、利用者・家族への説明を済ませてから算定を始めてください。

一方で、区分支給限度基準額の管理には含まれません。 算定構造表の注記に、緊急時訪問看護加算・特別管理加算・ターミナルケア加算などと並んで「『介護職員等処遇改善加算』は、支給限度額管理の対象外の算定項目」と明記されています。限度額いっぱいまで使っている利用者でも、この加算のためにケアプランを調整する必要はありません。

算定を始める月が決まったら、担当のケアマネジャーにも一言入れておくことをおすすめします。伝えることは2つだけです。利用者負担が少し変わること、そして限度額管理には影響しないこと。 これで給付管理側の混乱と問い合わせを先回りできます。

新規利用の立ち上げ時にケアマネへ伝えておきたい点は、初回加算の給付管理への影響も同じです。(Ⅰ)(Ⅱ)の分かれ目と伝え方は初回加算の記事で解説しています。

なお、退院直後の医療保険側で発生する退院支援指導加算は、介護保険の支給限度額管理とはそもそも別建ての制度です。医療・介護のどちらの枠組みかを取り違えないよう、あわせて確認しておくと安心です。

開業したばかりの事業所では、この医療・介護の二系統をどう回すかがそのまま事務体制の設計になります。届出の期限の違いと初回入金までの流れは訪問看護の開業と事務・請求体制の記事にまとめています。

処遇改善加算を含む介護保険側の加算と、医療保険側の加算を並べた一覧は訪問看護の加算一覧・早見表にあります。

4-4. 算定しないという判断はありうるか

制度上、算定は義務ではありません。ただし判断材料として次の点があります。

加算額は少額でも毎月継続して入ります。 一方で、必要な手続きは計画書と体制届の提出、そして年1回の実績報告です。要件も5章のとおり2ルートのどちらか一方で足ります。

そして賃金改善に充てなければならない額は、加算で入ってくる額以上であればよく、それを超える負担を求められるものではありません。利用者負担が増えることを理由に見送る判断もありえますが、前節のとおり月数十円〜数百円の水準です。見送る場合は、その理由を職員に説明できるようにしておくほうが、あとの採用や定着の場面で困りません。

賃金以外の面から採用と定着を立て直す道筋は「訪問看護の人手不足対策|採用の前にできる3つのこと」で扱っています。

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5. 要件は2ルートのどちらか一方で足ります

5-1. 「または」であって「かつ」ではありません

新たに対象となったサービスの算定要件は、次のように示されています。

加算Ⅳに準ずる要件(キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ及び職場環境等要件)又は令和8年度特例要件により算定可能

どちらか一方です。両方を満たす必要はありません。

ルート 中身
①令和8年度特例要件 ケアプランデータ連携システムを利用している/社会福祉連携推進法人に所属している のいずれか(6章
②加算Ⅳに準ずる要件 キャリアパス要件Ⅰ・キャリアパス要件Ⅱ・職場環境等要件をすべて満たす

②を選ぶ場合の中身はこうです。

キャリアパス要件Ⅰ — 職位・職責・職務内容等に応じた任用等の要件を定め、これに対応した賃金体系を整備し、就業規則等に明記して職員に周知すること。

就業規則がない小規模事業所でも大丈夫です。 Q&Aは「就業規則等」の「等」について「法人全体の取扱要領や労働基準法上の就業規則作成義務のない事業場(常時雇用する者が10人未満)における内規等を想定している」としています(問4-1)。通知にも、就業規則の作成義務がない事業所等では「就業規則の代わりに内規等の整備・周知により」要件を満たして差し支えない旨が示されています。常時雇用10人未満のステーションは、内規の整備と周知で足ります。

キャリアパス要件Ⅱ — 職員と意見交換しながら資質向上の目標と、次のaまたはbに関する具体的な計画を策定し、その計画に係る研修の実施または研修機会の確保をすること。そして全職員に周知すること。

  • 研修機会の提供または技術指導等(OJT・OFF-JT等)を実施するとともに、能力評価を行う
  • 資格取得のための支援(勤務シフトの調整、休暇の付与、交通費・受講料等の援助など)を実施する

aとbは選択です。 能力評価と資格取得支援の両方を行う必要はありません。

職場環境等要件 — 6区分(入職促進/資質の向上・キャリアアップ/両立支援・多様な働き方/腰痛を含む心身の健康管理/やりがい・働きがい/生産性向上)について取組を実施すること。訪問看護が準ずることになる加算Ⅳの水準では、区分ごとに1以上、生産性向上の区分のみ2以上です(加算Ⅰ・Ⅱでは区分ごとに2以上、生産性向上は3以上と水準が上がります)。

②のうち実質的なハードルは、就業規則等への任用要件・賃金体系の明記研修計画の策定の2点です。すでに整備している事業所であれば、追加の作業は多くありません。

5-2. 月額賃金改善要件について

既存の対象サービスには、加算Ⅳの2分の1以上を基本給または毎月支払われる手当の改善に充てるという月額賃金改善要件があります。

新たに対象となったサービスの要件を定めた表(別紙1 表2-3)には、この要件の記載がありません。 審議報告でも「キャリアパス要件Ⅰ及びⅡ並びに職場環境等要件を算定の要件とすることが適当」とのみ述べられています。

ただし本記事では「訪問看護には課されない」と断定しません。表に記載がないことと、要件として存在しないことは厳密には別だからです。基本給で配分するか賞与で配分するかを決める前に、指定権者に確認することをおすすめします。

なお、賃金改善に要する額が加算による収入以上であることは、どのルートを選んでも共通の前提です。要件表の標題が「賃金改善以外の要件」となっていることからも分かります。

5-3. 申請時点では誓約で足ります

もうひとつ、初年度の緩和があります。加算の申請時点では、令和8年度中に対応する旨の誓約で算定可能とされています。

要件が完全に整ってから申請する必要はない、ということです。ただし誓約したまま年度内に満たさなかった場合は返還の対象になりえます10章)。

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6. 令和8年度特例要件は訪問看護で使えるか

6-1. 訪問看護の選択肢は2つです

改定の概要では、令和8年度特例要件が「ケアプランデータ連携システム(訪問・通所サービス等)」「生産性向上推進体制加算Ⅰ又はⅡ(施設サービス等)」「社会福祉連携推進法人への所属」の3つとして紹介されています。

ただしこれは全サービス横断の概説です。 訪問看護など新たに対象となったサービス(別紙1 表1-5)について通知が定めている選択肢は、2つです。

選択肢 内容
ケアプランデータ連携システム(厚生労働省が同等と認めたシステムを含む)を利用していること
所属する法人が社会福祉連携推進法人に所属していること

生産性向上推進体制加算は施設サービス等向けの選択肢で、訪問看護では選べません。 そもそも訪問看護は生産性向上推進体制加算を算定できません。3つの選択肢が並んだ資料を見て「イが使えるかもしれない」と検討するのは時間の無駄になります。

もうひとつ、条文の動詞に注意してください。通知は「加入」ではなく「利用していること」と書いています。

6-2. 加入だけでは足りません

Q&A(問8-2)にこうあります。

令和8年度特例要件を満たすに当たっては、ケアプランデータ連携システムへの加入だけではなく、利用することが必要であり、実績報告書において、利用実績について記載することとする。

加入するだけでは足りません。 実際に使い、実績報告書に利用実績を書く必要があります。ケアマネジャーとのやり取りをデータ連携に移行できているステーションであれば自然に満たせますが、そうでなければ②のルートを検討したほうが早いこともあります。

「同等の機能とセキュリティを有するシステム」として、令和8年3月13日現在でカナミッククラウドサービス、ケアプランデータ連携サービス、「でん伝虫」データ連携サービス、まめネット ケアプラン交換サービスの4つが挙げられています(問8-1)。判定は「居宅介護支援費に係るシステム評価検討会」が行うもので、最新の状況は厚生労働省のページで確認するよう注記されています。

その他の実務上のポイントです。

  • 根拠資料の一律提出は求められませんが、保存期間は2年間で、指定権者から求めがあれば速やかに提出することとされています(問8-4)
  • 「令和8年度特例要件」という名称ですが、令和8年度限りである旨を明記した文言は、通知・改定の概要・審議報告のいずれにも見当たりませんでした。 令和9年度以降の扱いについて公表されている資料もありません。名称から時限的な措置と読むのが自然ですが、断定はできません。②のルートの整備をいずれ進める前提で考えておくほうが安全です

なお、Q&A問8-3には「令和8年4月及び5月に処遇改善加算を算定するための要件としては満たす必要はない」という記述がありますが、これは主に従前から対象だったサービス向けの問答です。訪問看護は6月以降が対象なので、この問答をそのまま自事業所に当てはめないでください。同じ答えの後段では、キャリアパス要件等を誓約により満たすものとして申請する場合には特例要件を満たしていることが必要、とされています。

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7. 介護職員がいないステーションで、誰に配るのか

訪問看護ステーションで最初に出る疑問がこれです。「介護職員等処遇改善加算」という名前なのに、うちには介護職員が1人もいない。

7-1. 職種の縛りはありません

Q&A(問2-1-2)が対象範囲を示しています。

介護職員以外の全職種(※)が含まれる。※ 介護事業所に勤務する介護職員以外の主な職種として、医師、歯科医師、薬剤師、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、機能訓練指導員(看護師、准看護師、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師等)、精神保健福祉士、介護支援専門員、計画作成担当者、社会福祉士、生活相談員・支援相談員、管理栄養士、栄養士、歯科衛生士、調理員、その他の事務職等が想定される。

答えの本体は「介護職員以外の全職種が含まれる」です。 職種名の列挙は注記における例示(「等が想定される」)であって、限定列挙ではありません。訪問看護ステーションの在籍職種はひととおり挙がっており、ここに書かれていない職種だから対象外、ということにもなりません。

配分の考え方は問2-1に示されています。

処遇改善加算の各事業所内における配分については、介護職員、特に経験・技能のある介護職員の処遇改善が重要であることに留意しつつ、事業所内で柔軟な配分を認めることとする。

「介護職員に留意しつつ」という文言は残りますが、在籍していない職種に配ることはできません。 実際には看護職員・リハビリ職・事務職への配分になります。

7-2. 集中させすぎないこと

自由度が高い分、注意点があります。問2-6です。

職務の内容や勤務の実態に見合わない著しく偏った配分は行わないこと

管理者1人に全額を寄せる、あるいは同一法人内の特定の事業所だけに集中させるといった設計は避けてください。職務の内容や勤務の実態に見合っているかが基準になります。

7-3. 法人本部と、対象外事業の職員

問2-8に整理があります。

法人本部の職員については、処遇改善加算の算定対象となるサービス事業所等における業務を行っていると判断できる場合には、賃金改善の対象に含めることができる。処遇改善加算を算定していない介護サービス事業所等(加算の対象外サービスの事業所等を含む。)及び介護保険以外のサービスの事業所等の職員は、処遇改善加算を原資とする賃金改善の対象に含めることはできない

法人の事務職員が訪問看護ステーションの業務も担っているなら対象に含められます。一方、加算を算定していない事業所や介護保険以外の事業だけを担当している職員は対象外です。

ここで訪問看護に固有の論点があります。 訪問看護ステーションは、ひとつの事業所で医療保険と介護保険の両方の訪問を行います。この文中の「介護保険以外のサービスの事業所等」が、医療保険の訪問だけを担当している職員まで指すのかどうかについて、公式のQ&Aに明記はありません。

事業所単位で見れば、訪問看護ステーションそのものが加算を算定する事業所なので、そこに勤務する職員は対象に含まれると読むのが自然です。ただし本記事では断定しません。医療保険専従に近い勤務形態の職員がいる場合は、配分設計の前に指定権者へ照会し、回答を記録に残しておくことをおすすめします。

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8. 医療保険側は別制度です

医療保険にも賃上げのための評価はありますが、まったく別の制度です。混同すると届出も実績報告も抜けます。

介護職員等処遇改善加算 訪問看護ベースアップ評価料
どの保険 介護保険(訪問看護費) 医療保険(訪問看護療養費)
届出先 都道府県等の指定権者 地方厚生局
単位 単位数(1000分の18)
施行 令和8年6月1日 令和8年6月
実績報告 都道府県等へ 別途

訪問看護ベースアップ評価料は令和8年度診療報酬改定で見直され、施設基準の文言が「主として医療に従事する職員の賃金の改善を図る体制にある場合」から「当該訪問看護ステーションに勤務する職員の賃金の改善を図る体制にある場合」に改められました。 対象が広がっています。なお「対象職員(医師・歯科医師を除く。)」という除外は、賃金改善算定基礎額の算出方法や継続的賃上げの届出要件のところで出てくる規定で、施設基準そのものの文言とは別です。

また令和8年度と令和9年度で段階的な評価とされており、時期によって金額が変わります。具体的な金額は段階と区分が細かいため、算定される際は原本でご確認ください。

届出の方法も介護側とは違います。地方厚生局の案内では、都道府県事務所ごとに設定された専用のメールアドレス宛にExcelファイルを提出する方式とされています。

両方を扱うステーションは、2つの制度を並行して回すことになります。 届出先も届出方法も違い、実績報告も別々です。

なお、同じ賃金改善額を介護側の実績報告と医療側の実績報告に重複して計上できるかどうかについては、介護保険の処遇改善加算のQ&Aに該当する問がありません。 医療保険側の疑義解釈を確認するか、それぞれの窓口に照会してください。ここを曖昧にしたまま両方の実績報告を出すのは避けたほうがよい部分です。

医療保険の利用者比率が高いステーションでは、介護側の加算額そのものが小さくなります(4章)。その分は医療保険側のベースアップ評価料が受け皿になるという設計を理解しておくと、どちらに手間をかけるかの判断がしやすくなります。

なお医療保険側の請求で返戻・査定が出たときの読み方と再請求の手順は「訪問看護のレセプト返戻|原因と再請求の手順・エラーコード早見表」にまとめています。

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9. 提出物と期限、そして自治体差

9-1. 出すもの

様式 名称 いつ
別紙様式2-1〜2-3 介護職員等処遇改善計画書 算定開始前(3章の期限)
別紙1・別紙2 介護給付費算定に係る体制等状況一覧表・届出書(体制届) 同上
別紙様式3-1・3-2 実績報告書 年度終了後
別紙様式4 変更に係る届出書 変更が生じたとき
別紙様式5 特別な事情に係る届出書 経営悪化等で賃金水準を維持できないとき

計画書と実績報告書は枝番に分かれています。1枚ではありません。様式は厚生労働省の処遇改善のページからダウンロードできます。

計画書は法人単位で一括して作成して差し支えないとされていますが、指定権者ごとに個別に提出する必要があります。

そして、出して終わりではありません。 通知は「処遇改善計画書を用いるなどにより職員に周知するとともに、就業規則等の内容についても職員に周知すること」を求めています。計画書は指定権者に出す書類であると同時に、職員に見せる書類です。誰にどう配るのかを決めた以上、その中身を本人たちが知らない状態は要件としても運用としても成り立ちません。

もうひとつ実務の落とし穴があります。体制届が受理されたら、請求ソフト側の体制設定にも反映してください。 ここが漏れると、体制上は算定できるのに毎月の請求に加算が乗らない、という算定漏れが静かに続きます。

9-2. 実績報告の期限

通知では「各事業年度における最終の加算の支払があった月の翌々月の末日まで」と定められています。

令和8年度は、令和9年3月分の加算の支払が令和9年5月であることから、通常の場合は令和9年7月31日になります。愛知県も「令和9年7月31日」(当日消印有効)と案内しています。

なお令和9年7月31日は土曜日にあたります。当日消印有効とする指定権者もあれば、翌営業日の扱いにする指定権者もありえますので、直前になってから確認するのは避けてください。

事業を廃止した場合は、最終の入金があった月の翌々月末日が期限になります。

9-3. 提出方法は自治体でまったく違います

ここは全国共通ではありません。実際に公表されている案内を並べます。

自治体 提出方法
大阪府 大阪府行政オンラインシステムのみ。「紙での申請は受け付けておりません」
愛知県 郵送のみ(必着)。「本届出に限っては、電子申請で受け付けることができません」。封筒に朱書きで「令和8年度介護職員処遇改善加算等計画書在中」と記入
東京都 専用フォームにExcel形式でアップロード(PDF不可)
埼玉県 電子申請・届出システム、またはメール(Excelのまま)
福岡県 郵送

オンライン限定の県と、郵送限定の県が両方あります。 隣接県で事業所を展開している法人は、同じ計画書を違う方法で出すことになります。

提出先も分かれます。訪問看護・訪問リハビリテーションは都道府県(政令市・中核市・事務移譲市町村に権限がある場合はその市町村)、居宅介護支援・介護予防支援・地域密着型サービスは市町村です。

ただし「都道府県」と一括りにすると迷います。実際の窓口は都道府県の出先機関であることが多いからです。愛知県は所管の福祉相談センター、北海道は(総合)振興局、兵庫県は県民局・県民センターとされています。東京都では八王子市内の事業所や地域密着型サービス・居宅介護支援等は区市町村が提出先です。

必ず自事業所の指定権者のページを確認してください。

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10. 返還にならないための運用

10-1. 不足は一時金で埋められます

算定要件は「賃金改善に要する額が加算による収入以上であること」です。年度末にこれを下回っていると、どうなるか。

Q&A(問1-9)に明確な答えがあります。

賃金改善額が加算額を下回った場合、算定要件を満たさないものとして、加算の返還の対象となる。ただし、不足する部分の賃金改善を賞与等の一時金として介護職員等に追加的に配分することで、返還を求めない取扱いとしても差し支えない

気づいた時点で配りきれば返還は避けられます。 逆に、配らずに残したまま実績報告を出すと返還になります。

年度の途中で加算額の見込みと実際の配分額を突き合わせておき、期末賞与で調整できる余地を残しておくのが現実的な運用です。

10-2. 比較の基準になる年度

賃金改善額は、加算を算定した後の実際の賃金水準と、原則として、初めて処遇改善加算・旧3加算又は交付金等を算定した年度の前年度における賃金水準との比較で算出することとされています。

訪問看護は令和8年度が初めての算定になるため、この原則にあてはめると比較の基準は令和7年度の賃金水準になります。ただし新たに対象となったサービスの基準年度を定めた記述は、Q&Aには見当たりません。 原則規定からの読み取りなので、計画書を作る前に指定権者に確認しておくと確実です。

原則によれない場合の道も用意されています。職員構成の変動等により前年度の賃金水準の推計が困難な場合や、現在の賃金水準と比較することが適切でない場合には、加算を除いた介護報酬の総単位数見込額に基づいて営業計画・賃金計画を策定して試算する方法が示されています。新規開設の事業所も同様の扱いです。

なお、事業主負担が増える法定福利費も賃金改善額に含められる範囲があります。詳細はQ&Aの該当問をご確認ください。

10-3. 記録として残しておくもの

  • 令和8年度特例要件を使う場合の根拠資料は2年間保存。指定権者の求めがあれば速やかに提出(問8-4)
  • 誓約で申請した場合は、年度内に要件を満たしたことを示す記録
  • 賃金改善の計算根拠(基準年度との比較)
  • 計画書と就業規則等を職員に周知した記録(回覧・共有した日付と方法)
  • 指定権者に照会した内容と回答

そして実績報告書の提出そのものを、年間スケジュールに入れてください。 訪問看護は今年度が初めての算定なので、1年後の実績報告(通常は令和9年7月31日)を忘れやすい構造にあります。提出は通知上の義務であり、賃金改善を実施したことを示す公式な報告はこれだけです。計画書を出した日に、実績報告の予定もカレンダーに入れてしまうのが確実です。

経営悪化等でやむを得ず賃金水準を維持できない場合には、別紙様式5「特別な事情に係る届出書」という手続きが用意されています。黙って下げるのではなく、この様式で届け出る形になります。

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11. よくある質問

Q. 訪問看護はどの区分を取ればいいですか?

区分はありません。訪問看護費に新設されたのは「ヌ 介護職員等処遇改善加算」の一本で、1000分の18(1.8%)です。加算Ⅰ〜Ⅳを選ぶ場面はありません。

Q. いつから算定できますか?

訪問看護等への対象拡大が適用されるのは令和8年6月1日からです。従前から対象だったサービスは令和8年4月・5月分も算定しているので、「処遇改善加算が6月に始まった」わけではありません。基準費用額(食費)の引上げは令和8年8月からで、これも別の日付です。

Q. 6月15日の期限を過ぎました。今年度はもう算定できませんか?

できます。通知の一般則は「当該事業年度において初めて処遇改善加算を算定する月の前々月の末日まで」で、4月15日・6月15日は令和8年度に限った特例です。ただし7月以降の具体的な期限は指定権者によって異なります。 通知に「都道府県知事等は処遇改善計画書の提出期日を延長しても差し支えない」とあるためで、実際に滋賀県や大阪市は6月・7月開始を6月15日に、兵庫県は前月15日(居宅系)としています。必ず自事業所の指定権者にご確認ください。

Q. 介護福祉士の年収440万円要件は満たせません。算定できませんか?

その要件(キャリアパス要件Ⅳ)は訪問看護には必要ありません。キャリアパス要件Ⅲ・Ⅴも不要です。

Q. 要件は全部満たす必要がありますか?

いいえ。「加算Ⅳに準ずる要件(キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ及び職場環境等要件)」または「令和8年度特例要件」のどちらか一方です。

Q. 介護職員がいませんが、誰に配ればいいですか?

看護師・准看護師・保健師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・事務職などに配分できます。Q&Aは「介護職員以外の全職種が含まれる」とし、これらの職種を例示しています。ただし職務の内容や勤務の実態に見合わない著しく偏った配分は避けてください。

Q. 利用者の自己負担は増えますか?

増えます。加算は所定単位数に上乗せされるため、1〜3割の自己負担にもそのまま反映されます。週1回訪問・1割負担の利用者で月60円前後が目安です。重要事項説明書の料金表を更新し、利用者への説明を済ませてから算定を始めてください。なお区分支給限度基準額の管理対象外なので、ケアプランの調整は不要です。

Q. いまから届け出て、6月分や7月分に遡って算定できますか?

できません。計画書は算定開始月の前々月末日までの事前提出が原則で、体制届も「15日以前の受理で翌月から適用」という事前の届出です。届出より前の月に遡って算定する仕組みはありません。過ぎた月の加算は戻らないので、算定すると決めたら早く動くほうが有利です。

Q. 医療保険の訪問が中心です。加算額はどうなりますか?

加算は介護保険の訪問看護費にのみ乗るため、医療保険の比率が高いほど加算額は小さくなります。医療保険側には訪問看護ベースアップ評価料があり、届出先は地方厚生局です。

Q. 基本給を上げなければいけませんか?

新たに対象となったサービスの要件表に月額賃金改善要件の記載はありません。ただし記載がないことと要件として存在しないことは別なので、基本給と賞与のどちらで配分するかを決める前に指定権者にご確認ください。

Q. 年度末に配りきれなかった場合はどうなりますか?

賃金改善額が加算額を下回ると返還の対象になります。ただし不足分を賞与等の一時金として追加配分すれば、返還を求めない取扱いとして差し支えないとされています。

Q. 令和9年度以降も特例要件は使えますか?

分かりません。「令和8年度特例要件」という名称ですが、令和8年度限りである旨を明記した文言は通知・改定の概要・審議報告のいずれにも見当たらず、令和9年度以降の扱いについて公表されている資料も確認できていません。名称から時限的な措置と読むのが自然ですが、断定はできない状態です。

Q. 特例要件で「生産性向上推進体制加算」を取ればいいですか?

訪問看護では選べません。通知が訪問看護等の新規対象サービスについて定めている特例要件は、ケアプランデータ連携システムの利用と、社会福祉連携推進法人への所属の2つです。生産性向上推進体制加算は施設サービス等向けの選択肢です。

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12. まとめ

要点を整理します。

訪問看護は1.8%の一択です。 区分がないので、加算Ⅰ〜Ⅳを比べる必要はありません。キャリアパス要件Ⅲ・Ⅳ・Ⅴも不要です。介護職員向けの要件解説の多くは、訪問看護には関係のない話です。

訪問看護等への対象拡大の適用は令和8年6月1日から。 従前から対象のサービスは4月・5月分も算定しています。食費の引上げ(8月)ともまた別の日です。

6月15日を過ぎていても算定を始められます。 通知の一般則は「初めて算定する月の前々月の末日」で、4月15日・6月15日は令和8年度限りの特例です。ただし7月以降の具体的な日付は指定権者の裁量で、実際に自治体ごとに割れています。 通知にある延長の余地を使って6月15日にそろえている自治体も、前月15日としている自治体もあります。自分の提出先を確認してから動いてください。

加算額の母数は介護保険分だけです。 医療保険の比率が高いほど加算額は小さくなります。国の掲げる「月1万円」は制度全体の目標であって、個々の事業所でその水準になることを約束する数字ではありません。試算を先に共有しておくと社内の説明が楽になります。

利用者の負担にも反映されます。 重要事項説明書の更新、利用者への説明、ケアマネジャーへの一言までがワンセットです。区分支給限度基準額の管理は対象外なので、ケアプランの調整は要りません。

要件は2ルートのどちらか一方。 ケアプランデータ連携システムを実際に使っているなら特例要件、そうでなければキャリアパス要件Ⅰ・Ⅱと職場環境等要件の整備です。申請時点では誓約で足ります。

配分先に職種の縛りはありません。 看護職員・リハビリ職・事務職に配れます。ただし著しく偏った配分は避けてください。

医療保険側は別制度です。 訪問看護ベースアップ評価料は届出先が地方厚生局で、実績報告も別に必要です。

不足は一時金で埋められます。 年度末に配りきれば返還は避けられます。

新しく対象になった制度は、最初の1年の段取りがいちばん重くなります。計画書の作成、体制届、賃金規程の確認、そして翌年の実績報告。制度の理解と、毎月・毎年の手続きを回し続けることは別の仕事です。 前者は一度学べば済みますが、後者は担当者が替わっても続けなければなりません。

なお、体制届と計画書が算定の起点になる以上、出し忘れた期間の分を後から遡って算定することはできません。 届出漏れも含めて、算定漏れに気づいたときに何がどこまで取り返せるかは「訪問看護の加算算定漏れ|遡及請求の期限は医療5年・介護2年」で整理しています。

こうした事務を外部に任せる場合、書類によって委託できる範囲が変わります。レセプトや届出関係の事務書類と、作成する人が法令で定められている訪問看護計画書・報告書では扱いが異なるためです。線引きは「訪問看護の書類作成代行はどこまで可能か|事務と判断の線引き」にまとめています。

請求業務や加算の届出・実績報告といった事務を外部に任せるという選択肢について、対応できる範囲や進め方をご案内しています。

訪問看護の請求業務・書類作成の外部委託について見る


ご利用にあたって

本記事は2026年7月時点で公開されている厚生労働省の告示・通知・Q&A、および都道府県の公表資料にあたって作成しています。そのうえで、次の4点にご留意ください。

提出期限・提出方法・提出先は指定権者ごとに異なります。 本記事では大阪府・大阪市・滋賀県・兵庫県・愛知県・名古屋市・東京都・埼玉県・福岡県・北海道などの公表資料を出典を示して引用していますが、これは全国共通の運用ではありません。必ず自事業所の指定権者のページをご確認ください。

制度は改定されます。 「令和8年度特例要件」の令和9年度以降の扱いは未公表です。Q&Aも版を重ねる可能性があります。本記事の内容が最新である保証はありません。

記載に誤りが含まれている可能性があります。 原文にあたって確認していますが、条文や資料の読み取りを誤っている箇所があるかもしれません。金額・単位数・様式番号は原本でご確認ください。

断定を避けた箇所があります。 月額賃金改善要件が新規対象サービスに課されるか、医療保険専従に近い職員を配分対象に含められるか、介護と医療の賃金改善額を重複計上できるかについては、公表資料で確認できなかったため断定していません。判断が必要な場合は指定権者または地方厚生局にご照会ください。

確認したいこと 窓口
介護保険の処遇改善加算の要件・様式・期限 都道府県(政令市・中核市・事務移譲市町村を含む)
医療保険のベースアップ評価料 地方厚生局
賃金規程・就業規則の整備 社会保険労務士等

照会した内容と回答は記録に残しておくことをおすすめします。後の実地指導で、そう判断した根拠を説明できます。

体制届の整備状況は運営指導でも確認対象です。通知が来てからの動き方は運営指導対策の記事にまとめました。


参考・出典一覧

厚生労働省|令和8年度介護報酬改定

厚生労働省|処遇改善加算

厚生労働省|医療保険・統計

都道府県・市