最終確認日:令和8年8月12日|根拠告示:厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)六の二・六の三/指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第30条の2・第37条の2・第74条/老企第36号
介護保険の訪問看護における業務継続計画未策定減算と高齢者虐待防止措置未実施減算は、いずれも運営基準上の体制が整っていない場合に、その事業所の利用者全員について所定単位数の100分の1(1%)を減算するものです。名前が並んで告知されるので同じ制度に見えますが、適用が始まった時期も、判定に使う条文の範囲も違います。
うちは今その状態なのか。研修をやっていないと減算されるのか。減算が始まってしまったらいつまで続くのか。この記事はその3つに答えます。
先に、いちばん誤解されている点から。「BCPの研修や訓練をしていないと1%が減算される」と説明している解説記事が複数ありますが、これは違います。業務継続計画未策定減算の判定に、研修と訓練は入りません。 告示が引いているのは省令の「第一項」だけで、研修・訓練を定めた第二項ではないからです。厚生労働省のQ&A(令和6年5月17日 Vol.6 問7)も「算定要件ではない」と明記しています。
研修をしていないこと自体は運営基準の違反です。やらなくてよいという話ではありません。ただ、それを理由にこの減算がかかるわけではない。計画がないまま研修から手をつけても、減算は止まりません。
もうひとつ、適用の始まりが2つで違います。虐待防止は令和6年6月から、業務継続計画は令和7年4月から。片方は要件が1つ、もう片方は4つ全部です。
先に結論
| 問い | 答え |
|---|---|
| いくら減るのか | どちらも所定単位数の100分の1(1%)。利用者全員に適用されます(→3章) |
| いつから適用されているか | 虐待防止は令和6年6月、BCPは令和7年4月から。経過措置が置かれていたのはBCPだけで、それも終わっています(→3章) |
| 研修をしていないと減算されるか | BCP減算にはなりません。虐待防止減算にはなります(→4章、5章) |
| 何が揃えば減算されないか | BCPは計画(感染症・災害)と必要な措置。虐待防止は委員会・指針・研修・担当者の4つ全部(→4章、5章) |
| 減算はいつまで続くか | 解消・改善が認められた月まで。直した月も減算されます(→6章) |
| 届出はどこに出すのか | 都道府県(指定都市・中核市はその市)。市町村のページには訪問看護が載っていません(→7章) |
| 医療保険の訪問看護は | 同じBCPの義務はありますが、減算はありません(→8章) |
場面から探す場合は、こちらから。
- 自分の事業所が減算されているか確かめたい → 2章 30秒判定
- 研修・訓練が要るのかを確定させたい → 4章 BCP未策定減算
- 委員会を年何回開けばいいか知りたい → 5章 虐待防止措置未実施減算
- すでに減算が始まってしまった → 6章 減算が続く期間
- 体制届を出したか思い出せない → 7章 届出
- 運営指導が近い → 9章 実際に出す書類
- 気づかずに満額請求していた → 10章 過大請求になった場合
1. 結論:関係する減算は2つ。片方は「計画があるか」だけで決まる
訪問看護費・介護予防訪問看護費に設けられた運営基準系の減算は、業務継続計画未策定減算と高齢者虐待防止措置未実施減算の2つです。どちらも所定単位数の100分の1を、その事業所の利用者全員について減算します。
この2つは、自治体からの通知でも解説記事でも並べて扱われます。ただし条文の作りは対称ではありません。差が出るのは、告示が省令のどこを引いているかです。
| 業務継続計画未策定減算 | 高齢者虐待防止措置未実施減算 | |
|---|---|---|
| 告示95号の号 | 六の三 | 六の二 |
| 告示が引く条文 | 第30条の2第一項 | 第37条の2(条全体) |
| 判定される中身 | 計画の策定+必要な措置 | 委員会・指針・研修・担当者の4つ |
| 研修・訓練の未実施 | 判定に入らない | 研修は判定に入る |
適用開始日など制度全体の早見は3章の表に譲り、この章は条文の対比だけに絞ります。告示の条文はこうなっています。まず業務継続計画のほう。
六の三 訪問看護費における業務継続計画未策定減算の基準 指定居宅サービス等基準第七十四条において準用する指定居宅サービス等基準第三十条の二第一項に規定する基準に適合していること。
次に虐待防止のほう。
六の二 訪問看護費における高齢者虐待防止措置未実施減算の基準 指定居宅サービス等基準第七十四条において準用する指定居宅サービス等基準第三十七条の二に規定する基準に適合していること。
六の三には「第一項」があり、六の二にはありません。 この4文字が、2つの減算の性格を分けています。詳しくは4章と5章で扱います。
なお、自治体の案内では「業務継続計画未策定減算と身体拘束廃止未実施減算に関する届出について」といった形で、身体的拘束廃止未実施減算とセットで告知されることがあります。訪問看護はこの減算の対象ではありません。 介護給付費単位数の算定構造の訪問看護費に、身体的拘束廃止未実施減算の行は置かれていません。泊まりを伴うサービスの減算です。自分の事業所に関係するのは2つだけ、と切り分けてから読み進めてください。
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2. 【30秒判定】いま減算されているか
順番は「請求がどう出ているか」「実態はどうか」「その2つが合っているか」です。減算の対象になるかどうかを決めるのは実態のほう(チェック1・2)で、チェック0とチェック3は請求と届出が実態に追いついているかの確認になります。
チェック0|先月の請求データを開く
請求ソフトで介護給付費明細書のプレビューを出し、利用者1人分のサービスコードを見てください。介護保険のこの2つの減算は、独立した減算の行ではなく、基本サービスと合成されたコードで請求されます。高齢者虐待防止措置未実施減算なら「訪看Ⅰ2・虐防」のように、サービス内容略称に減算を示す文字が付いた形です(業務継続計画未策定減算も令和7年4月適用分からコード表に反映されています)。略称付きのコードが使われていれば、その月は減算された額で請求しています。通常のコードのままなら、減算なしで請求しています。
ここで分かるのは請求の見え方だけです。通常のコードのまま=要件を満たしている、ではありません。 実態が伴わないまま基準型で請求している可能性があるので、続けて実態を見ます。
チェック1|業務継続計画が、感染症と災害の両方について作ってありますか
片方しかない場合も減算の対象になります。1つの文書にまとめてあるかどうかは問われません(→4章)。
チェック2|虐待防止について、次の4つが全部ありますか
委員会を定期的に開いている。指針を整備している。年1回以上の研修をしている。担当者を置いている。4つのうち1つでも欠けていれば減算です(→5章)。
チェック3|チェック0とチェック1・2は一致していますか
体制等状況一覧表の届出が「基準型」か「減算型」かを確認し、実態と突き合わせます。要件を満たしているのに減算型で届け出ていれば、取れるはずの報酬を自分で削っています。要件を満たしていないのに基準型で請求していれば過大請求です。同じ一覧表を開くなら、サービス提供体制強化加算と理学療法士等の8単位減算の欄も同じ日に点検しておくと、体制まわりの年次確認が1回で済みます(→7章、10章)。
| 判定 | 次にやること |
|---|---|
| チェック1・2とも「はい」で、届出も基準型 | 9章で、運営指導のときに出す書類が揃っているかを確認 |
| チェック1が「いいえ」 | 4章で不足している計画を特定し、6章で減算がいつまで続くかを確認 |
| チェック2が「いいえ」 | 5章で欠けている要件を特定。改善計画の提出も要ります(6章) |
| 実態と届出がずれている | 7章で届出を直し、請求済みの月があれば10章へ |
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【図版1】体制等状況一覧表の該当欄(「高齢者虐待防止措置実施の有無」「業務継続計画策定の有無」の1 減算型/2 基準型)と、介護給付費明細書のサービスコード欄が減算合成コード(例:訪看Ⅰ2・虐防)に変わる様子を並べた図解
3. 早見表|減算率・適用開始日・判定する条文
| 項目 | 業務継続計画未策定減算 | 高齢者虐待防止措置未実施減算 |
|---|---|---|
| 減算率 | 所定単位数の100分の1 | 所定単位数の100分の1 |
| 対象 | 当該事業所の利用者全員 | 当該事業所の利用者全員 |
| 適用開始(訪問看護) | 令和7年4月1日 | 令和6年6月1日 |
| 経過措置 | 令和7年3月31日まで適用しない(告示86号 附則第2条) | 訪問看護には経過措置の規定なし |
| 根拠告示 | 告示95号 六の三 | 告示95号 六の二 |
| 運営基準 | 省令37号 第30条の2第1項(第74条で準用) | 省令37号 第37条の2(第74条で準用) |
| 介護予防訪問看護 | 適用あり | 適用あり |
減算率の1%は、訪問看護費の所定単位数に対して掛かります。加算を減算の基礎に含むかどうかを明示した一文は確認できていないため、この記事では「基本報酬に対して1%」とだけ書きます。
1%という数字は小さく見えます。ただし掛かるのは1人ではなく利用者全員で、1か月ではなく解消する月までです。介護保険の請求が月300万円のステーションなら1%は月3万円。気づかないまま半年続けば18万円になります。2つとも該当していれば単純に倍です。しかも減算は、届出を1つ直し忘れただけでも発生します。
3-1. 訪問看護の虐待防止減算は、4月ではなく6月に始まっている
ここは資料を読み間違えやすいところです。高齢者虐待防止措置未実施減算は令和6年度改定で導入されましたが、訪問看護に適用が始まったのは令和6年4月1日ではなく6月1日です。
理由は改定の施行日にあります。厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の施行時期について」は、令和6年6月1日施行とするサービスを「訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション」の4つとし、それ以外を4月1日施行としています。6月にずらした理由も書かれていて、「令和6年度診療報酬改定が令和6年6月1日施行とされたこと等を踏まえ」とあります。医療保険と足並みをそろえた結果です。
一般向けの改定解説は「令和6年4月から」と書きます。それは4つのサービス以外について正しい記述で、訪問看護には当てはまりません。自分の事業所がいつから対象だったかを遡って数えるときは、令和6年6月からになります。
一方の業務継続計画未策定減算は、経過措置が置かれていました。老企第36号の該当部分です。
なお、経過措置として、令和7年3月 31 日までの間、当該減算は適用しないが、義務となっていることを踏まえ、速やかに作成すること。
これは業務継続計画未策定減算の項に置かれた文で、高齢者虐待防止措置未実施減算の項に同種の記述はありません。経過措置があったのは業務継続計画のほうだけで、それも令和7年3月31日で切れています。2つの減算が同時に走り始めたわけではない、ということです。
令和8年6月1日の臨時改定では、この2つの減算に変更はありません。この改定の中身は処遇改善の見直しが中心で、訪問看護には介護職員等処遇改善加算が新設されました(詳しくは訪問看護の処遇改善加算の記事)。減算のルールは令和6年度改定のまま動いていません。
訪問看護の減算には、このほかに同一建物居住者へのサービス提供に係る減算や准看護師が訪問した場合の減算があります。同一建物の数え方は同一建物減算の記事で医療保険とあわせて整理しました。加算・減算の全体像は訪問看護の加算一覧・早見表にまとめています。
この章の出典
- 厚生労働省 老企第36号「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について」(令和6年改正版)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の施行時期について」
- 厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」
- 厚生労働省「介護報酬の算定構造」(令和8年6月改定箇所)
4. 業務継続計画未策定減算|判定されるのは「第一項」だけ
4-1. 省令の条文は三層になっている
業務継続計画について、省令37号第30条の2は3つの項に分かれています。訪問看護には第74条の準用で及びます。
指定訪問介護事業者は、感染症や非常災害の発生時において、利用者に対する指定訪問介護の提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下「業務継続計画」という。)を策定し、当該業務継続計画に従い必要な措置を講じなければならない。
2 指定訪問介護事業者は、訪問介護員等に対し、業務継続計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施しなければならない。
3 指定訪問介護事業者は、定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行うものとする。
役割を分けると、こうなります。
| 項 | 定めていること | 減算の判定 |
|---|---|---|
| 第1項 | 計画の策定+計画に従い必要な措置を講じる | 入る |
| 第2項 | 周知/研修・訓練の定期的な実施 | 入らない |
| 第3項 | 定期的な見直し | 入らない |
告示95号 六の三が引いているのは「第三十条の二第一項に規定する基準」です。第2項と第3項は引かれていません。老企第36号も「指定居宅サービス等基準第 30 条の2第1項(中略)に規定する基準を満たさない事実が生じた場合に」と書いています。
4-2. 研修・訓練の未実施は、この減算の算定要件ではない
条文の構造から読めることを、厚生労働省が明文で確認しています。令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6・令和6年5月17日)の問7です。
問7 業務継続計画未策定減算はどのような場合に適用となるのか。
(答)
・ 感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合や、当該業務継続計画に従い必要な措置が講じられていない場合に減算の対象となる。
・ なお、令和3年度介護報酬改定において業務継続計画の策定と同様に義務付けられた、業務継続計画の周知、研修、訓練及び定期的な業務継続計画の見直しの実施の有無は、業務継続計画未策定減算の算定要件ではない。
研修・訓練・周知・見直しの4つは、いずれもこの減算の算定要件ではない。 これがこのQ&Aの答えです。
一方で、これらは省令第2項・第3項が定める義務です。やらなくてよいという話ではありません。整理すると二層になります。
| 状態 | 減算 | 運営基準 |
|---|---|---|
| 計画が未策定(第1項) | かかる | 違反 |
| 計画はあるが研修・訓練が未実施(第2項) | かからない | 違反 |
| 計画はあるが見直しをしていない(第3項) | かからない | 違反 |
減算にならないことと、指導で指摘されないことは別です。研修・訓練の記録は運営指導の標準確認文書に挙がっています(→9章)。この記事が示せるのは「減算の判定にどう効くか」までで、指導での評価はそれとは別に考えてください。
なお、研修と訓練の頻度は解釈通知(老企第25号)に「定期的(年1回以上)」とあります。ただし訪問系と施設系で頻度が分かれるかどうかは、今回確認した範囲では区別を特定できませんでした。記事末の開示に回します。
4-3. 感染症と災害の両方が要る。1つの文書にまとめるのは構わない
Q&Aの1つ目の箇条書きが「感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合」と書いているとおり、感染症のBCPだけ、あるいは災害のBCPだけでは足りません。片方が欠けていれば減算の対象です。
解釈通知は、感染症に係る業務継続計画(平時からの備え/初動対応/感染拡大防止体制の確立)と、災害に係る業務継続計画(平常時の対応/緊急時の対応/他施設及び地域との連携)で、記載すべき項目をそれぞれ定めています。そのうえで「感染症及び災害の業務継続計画を一体的に策定することを妨げるものではない」としています。必要なのは内容が両方そろっていることで、文書を2冊に分けることではありません。
もうひとつ、第1項には「当該業務継続計画に従い必要な措置を講じなければならない」という後半があります。Q&Aもここを拾って「当該業務継続計画に従い必要な措置が講じられていない場合」を減算の対象に挙げています。計画に書いた備蓄や連絡体制が実際には手つかず、という状態は第1項の範囲です。棚に置いてあるだけの計画は、条文上も「策定した」とは扱われません。
何から作るか。 ゼロから書く必要はありません。厚生労働省が介護事業所向けの業務継続ガイドラインと、記入して使えるひな形を公開しています。感染症編は訪問系サービス向けのファイルが用意されており、自然災害編は共通のひな形です。解釈通知が求める記載項目はひな形の見出しにそのまま対応しているので、事業所名・連絡網・備蓄品・優先業務のあたりを埋めるところから始めるのが最短になります。ダウンロード先は本章末の出典に置きました。
4-4. 訪問看護の策定状況
厚生労働省の令和5年度老人保健健康増進等事業の調査(令和5年7月時点、訪問看護の回答数379)では、策定を完了していると答えた事業所は感染症のBCPで25.6%、自然災害のBCPで21.9%でした。未策定(未着手)は13.5%と14.0%です。
この調査は経過措置の期間中に行われたもので、減算が適用され始めた令和7年4月以降の策定率は確認できませんでした。数字をそのまま現状として読まないでください。「策定中」と答えた層の割合は、図表から読み取れる値の合計が100%にならず確定できなかったため掲載していません(→記事末の開示)。
この章の出典
- 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年3月31日 厚生省令第37号)第30条の2・第74条
- 厚生労働省「厚生労働大臣が定める基準」(平成27年3月23日 厚生労働省告示第95号)六の三
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)」(令和6年5月17日)問7
- 厚生労働省 老企第25号「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(平成11年9月17日)
- 厚生労働省 老企第36号(令和6年改正版)
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会「介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業(結果概要)」
- 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画」(ガイドライン・ひな形の配布元)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン」
- 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」
5. 高齢者虐待防止措置未実施減算|4つのうち1つ欠ければ減算
5-1. 告示は条全体を引いている
こちらは告示95号 六の二が「第三十七条の二に規定する基準」と、項を限定せずに条を丸ごと引いています。省令37号第37条の2の中身は4つの号です。BCPの条文と同じく、訪問看護には第74条の準用で及びます(条文が「訪問介護」と書いてあるのはそのためです)。
指定訪問介護事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
一 当該指定訪問介護事業所における虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等を活用して行うことができるものとする。)を定期的に開催するとともに、その結果について、訪問介護員等に周知徹底を図ること。
二 当該指定訪問介護事業所における虐待の防止のための指針を整備すること。
三 当該指定訪問介護事業所において、訪問介護員等に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。
四 前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。
老企第36号は、この4つを減算の判定に落として書いています。
高齢者虐待防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催していない、高齢者虐待防止のための指針を整備していない、高齢者虐待防止のための年1回以上の研修を実施していない又は高齢者虐待防止措置を適正に実施するための担当者を置いていない事実が生じた場合
接続は「又は」です。4つのうちどれか1つでも欠けていれば減算になります。 BCP減算のように「計画さえあれば」という判定にはなりません。
5-2. 虐待が起きたかどうかとは関係がない
同じ老企第36号が、冒頭でこう書いています。
高齢者虐待防止措置未実施減算については、事業所において高齢者虐待が発生した場合ではなく、指定居宅サービス基準第 37 条の2(中略)に規定する措置を講じていない場合に、利用者全員について所定単位数から減算することとなる。
「発生した場合ではなく」と正面から否定しています。虐待が一件も起きていない事業所でも、4つの措置のどれかが欠けていれば減算です。この減算は事故に対する罰則ではなく、体制の未整備に対するもの、ということになります。
5-3. 研修は年1回以上。委員会の頻度には数値基準がない
ここは書かれ方が分かれるところなので、条文と通知に何が書いてあるかをそのまま示します。
| 要件 | 頻度の定め | 出典 |
|---|---|---|
| 委員会の開催 | 「定期的に開催」。回数の数値は示されていない | 省令37号第37条の2第1号/老企第25号 |
| 指針の整備 | 頻度の定めなし(整備されているか) | 省令37号第37条の2第2号 |
| 研修の実施 | 年1回以上 | 老企第36号 |
| 担当者の設置 | 頻度の定めなし(置かれているか) | 省令37号第37条の2第4号 |
研修の「年1回以上」は老企第36号の本文にある数値です。この回数はサービス種別で分かれており、厚生労働省のQ&A(介護保険最新情報Vol.1345・令和7年1月20日)は、施設系・居住系を年2回以上、訪問看護・介護予防訪問看護を含む在宅系を年1回以上としています。
一方、虐待防止のための委員会について、省令も解釈通知も「定期的に開催」までしか書いておらず、回数の数値を置いていません。 対比になるのが感染症対策の委員会で、こちらは省令37号第31条第3項第一号が「おおむね六月に一回以上開催する」と条文レベルで数値を定めています。つまり厚生労働省は、必要なら省令に回数を書きます。虐待防止委員会に書いていないのは、書き漏らしではないと読むのが自然です。
委員会の開催回数を「年◯回以上」と紹介している解説も見られますが、確認できた範囲では、訪問系サービスの虐待防止委員会についてその数値を定めた原文には到達していません。自分の指定権者が集団指導などで具体的な回数を示している場合は、そちらに従ってください。 記事として書けるのは「定期的」までです。
開き方には、条文と通知が明示的に緩めている部分があります。委員会はテレビ電話装置等を活用して行えると条文にあり、解釈通知(老企第25号)はさらにこう書いています。
なお、虐待防止検討委員会は、他の会議体を設置している場合、これと一体的に設置・運営することとして差し支えない。また、事業所に実施が求められるものであるが、他のサービス事業者との連携等により行うことも差し支えない。
単独開催は求められていません。 既存の会議に議題として立てる形でも成立します。
5-4. 職員が数名の事業所で、委員会をどう開くか
「委員会」という語の重さで手が止まる前に、条文が何を求めていないかを先に確認してください。
条文が求めているのは、虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、その結果を職員に周知徹底することだけです。構成人数の下限も、外部委員を入れる要件も置かれていません。 管理者と看護師全員で開いても、それは条文上の委員会です。テレビ電話装置等の活用も認められているので、全員が同じ場所に集まる必要もありません。前節のとおり、他の会議体と一体で運営することも差し支えないとされています。
実務として必要なのは、開いたことが文字で残っていることです。日付、出席者、議題、決まったこと。この4点が書かれたA4一枚で、運営指導の標準確認文書「虐待防止対策検討委員会の開催状況及び結果」(→9章)は満たせます。逆に、普段から全員で話しているという実態があっても、記録がなければ開催を示せません。
現実的な運用は、定例のカンファレンスや職員会議の後半に虐待防止を議題として立て、その部分だけを別記録として残す形です。研修も同じ日に組めば、年1回の作業が1日にまとまります。
この章の出典
- 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)第31条第3項・第37条の2・第74条
- 厚生労働省「厚生労働大臣が定める基準」(平成27年厚生労働省告示第95号)六の二
- 厚生労働省 老企第36号(令和6年改正版)
- 厚生労働省 老企第25号「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(平成11年9月17日)
- 厚生労働省 老健局高齢者支援課「高齢者虐待防止措置未実施減算、身体拘束廃止未実施減算の取扱いに係るQ&Aの周知について」(介護保険最新情報Vol.1345・令和7年1月20日)
6. 減算はいつからいつまで続くか|直した月も減算されます
6-1. 起点は届出日ではなく「事実が生じた月」
加算の届出には「毎月15日以前なら翌月から、16日以降なら翌々月から」という15日ルールがあります(看護体制強化加算の記事で扱いました)。減算はこれと違い、届け出た日ではなく要件を満たさなくなった事実の発生を起点に適用されます。
業務継続計画未策定減算について、老企第36号はこう定めています。
指定居宅サービス等基準第 30 条の2第1項(中略)に規定する基準を満たさない事実が生じた場合に、その翌月(基準を満たさない事実が生じた日が月の初日である場合は当該月)から基準を満たない状況が解消されるに至った月まで、当該事業所の利用者全員について、所定単位数から減算することとする。
高齢者虐待防止措置未実施減算のほうは、こうです。
事実が生じた月の翌月から改善が認められた月までの間について、利用者全員について所定単位数から減算することとする。
6-2. 「解消されるに至った月まで」の読み方
両方に共通して、終わりは「解消されるに至った月まで」「改善が認められた月まで」です。ここを取り違えると1か月分ずれます。
つまり、直した月そのものも減算の対象です。8月に計画を作り終えたなら、減算がなくなるのは9月分から。8月分は減算されたまま請求します。改善した翌月から通常に戻る、と読んでください。
始まりのほうには、業務継続計画未策定減算の側にだけ書かれた例外が1つあります。事実が生じた日が月の初日だった場合は、翌月ではなくその月から減算です。虐待防止側の記述に、この括弧書きはありません。
| 開始 | 終了 | |
|---|---|---|
| 業務継続計画未策定減算 | 事実が生じた月の翌月(事実が月の初日なら当該月) | 基準を満たさない状況が解消されるに至った月 |
| 高齢者虐待防止措置未実施減算 | 事実が生じた月の翌月 | 改善が認められた月 |
【図版2】減算期間のタイムライン図(事実の発生月・翌月からの減算開始・改善月も減算対象・その翌月から通常、を月単位の帯で示す)
6-3. 虐待防止のほうには、改善計画の提出と報告がついてくる
高齢者虐待防止措置未実施減算には、減算されて終わりではない手続きが付随します。老企第36号の該当部分です。
速やかに改善計画を都道府県知事に提出した後、事実が生じた月から3月後に改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告することとし
提出先は都道府県知事(指定都市・中核市ではその市長)です。「速やかに改善計画」と「3月後に改善状況の報告」の2段構えで、報告の時期は改善した月からではなく事実が生じた月から数えます。業務継続計画未策定減算の項に、この改善計画・報告の記述はありません。
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7. 届出|訪問看護は市町村ではなく都道府県に出します
7-1. 体制等状況一覧表に「減算型/基準型」の欄がある
この2つの減算は、体制の届出で管理されます。使う様式は加算のときと同じで、介護給付費算定に係る体制等に関する届出書と、体制等状況一覧表の2点です。一覧表の訪問看護・介護予防訪問看護の欄に、次の2項目が並んでいます。
- 高齢者虐待防止措置実施の有無 … 1 減算型/2 基準型
- 業務継続計画策定の有無 … 1 減算型/2 基準型
要件を満たしているなら「基準型」、満たしていないなら「減算型」を選びます。要件を満たしていても、届出が減算型のままなら請求は減算された額になります。 逆に、要件を満たさなくなったのに基準型のまま請求していれば過大請求です(→10章)。体制を整えることと、それを届け出ることは別の作業だと考えてください。
自治体によっては、期限までに「基準型」の届出がなければ「減算型」として扱う運用を案内しています。埼玉県は「『基準型』である旨の届出がない場合、加算区分が『減算型』となります」と書いています。これはその自治体の運用として示されているもので、全国共通のルールとして確認できたものではありません。自分の指定権者の案内で確かめてください。
7-2. 市のページを見ても訪問看護が載っていない理由
「業務継続計画未策定減算 届出」で検索すると、市町村のページが上位に並びます。ところが開いてみると、対象サービスの一覧に訪問看護が入っていないことがあります。届出が要らないという意味ではありません。
理由は指定権限の分かれ方にあります。訪問看護・介護予防訪問看護の指定権者は都道府県知事(指定都市・中核市ではその市長)です。市町村のページが扱っているのは、市町村が指定する地域密着型サービスと総合事業の分です。だから同じ減算の話をしていても、訪問看護は市のページの表に出てきません。
自分の事業所の提出先は、指定を受けたときの相手で判断できます。都道府県の指定なら都道府県、指定都市・中核市の指定ならその市です。開業時にどの届出をどこへ出すかの全体像は開業と事務・請求体制の記事で整理しました。医療保険側の届出(地方厚生局)とも系統が別なので、3つの窓口を混同しないようにしてください。
この章の出典
- 厚生労働省「介護給付費算定に係る体制等に関する届出等における留意点について」(令和8年6月1日適用版)
- 埼玉県「介護給付費算定に係る体制等に関する届出書・体制等状況一覧表」
- 厚生労働省 老企第36号(令和6年改正版)第一 届出手続の運用
8. 医療保険の訪問看護には、この減算がありません
医療保険の訪問看護療養費に、業務継続計画未策定減算や高齢者虐待防止措置未実施減算にあたる規定はありません。ここで終わらせると誤解を招くので、義務のほうまで書きます。
8-1. BCPの義務は医療保険側にもある。条文の作りもほぼ同じ
指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成12年厚生省令第80号)第22条の2です。
指定訪問看護事業者は、感染症及び非常災害の発生時において、利用者に対する指定訪問看護の提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下この条において「業務継続計画」という。)を策定し、当該業務継続計画に従い必要な措置を講じなければならない。
2 指定訪問看護事業者は、看護師等に対し、業務継続計画について周知するとともに、必要な研修及び訓練を定期的に実施しなければならない。
3 指定訪問看護事業者は、定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行うものとする。
介護保険の省令37号第30条の2と読み比べると、1項=策定、2項=周知・研修・訓練、3項=見直しという三層の作りが同じです。違うのは、こちらを引いて減算を定めた告示が存在しないことだけ。同じ義務を負いながら、報酬上の制裁は介護保険にしかないという非対称です。
虐待防止のほうは、義務の置かれ方も違います。省令80号に「虐待の防止」という独立した条はなく、第21条(運営規程)の第七号に「虐待の防止のための措置に関する事項」を定めるよう求めているだけです。介護保険側のような4つの措置の列挙はありません。
8-2. 両保険を回している事業所での実務
1つのステーションで医療保険と介護保険の両方を提供している場合、BCPを2本作る必要はありません。義務の中身が同型なので、1本の計画で両方の基準を満たせます。ただし減算がかかるのは介護保険の請求分だけなので、計画が未策定の期間があったときに影響を受けるのは介護保険の利用者への請求です。医療保険の請求額は変わりません。
一方で、指導の場面では別です。医療保険側は地方厚生局の指導・監査、介護保険側は指定権者の運営指導と、見る主体も根拠も分かれます。この2つの流れの違いは運営指導対策の記事で扱いました。
この章の出典
- 厚生労働省「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年3月31日 厚生省令第80号)第21条・第22条の2
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」(令和8年3月10日版)
9. 運営指導で実際に出す書類
厚生労働省の介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月策定・令和6年7月改訂)の別添「確認項目及び確認文書」に、訪問看護の欄があります。この2つの減算に対応する部分を抜き出します。
| 確認項目 | 標準確認文書 |
|---|---|
| 業務継続計画の策定等(第30条の2) | ①業務継続計画 ②研修の計画及び実績がわかるもの ③訓練の計画及び実績がわかるもの |
| 虐待の防止(第37条の2) | ①虐待防止対策検討委員会の開催状況及び結果がわかるもの ②虐待防止指針 ③虐待防止研修の計画及び実績 ④担当者を置いていることがわかるもの |
注目してほしいのは、求められているのが「計画」だけではなく「計画及び実績」だという点です。研修の年間計画を作っただけでは足りず、実際に開催したことがわかる記録まで揃って1組になります。委員会も同じで、開催状況と結果の両方です。
ここで4章の整理が効いてきます。研修・訓練の未実施はBCP減算の要件ではありませんが、標準確認文書には研修と訓練の実績が挙がっています。減算はかからないが、指導では確認される。 この二層を分けて理解しておくと、「減算されないから後回しでよい」という判断を避けられます。
担当者については、「置いていることがわかるもの」が求められます。頭の中で決めているだけでは書類になりません。辞令、運営規程、職務分掌表、委員会の設置要綱など、名前と役割が文字で残っているものを1つ用意してください。記録の残し方そのものについては訪問看護記録書の記事で扱っています。
この章の出典
10. 減算に気づかず満額で請求していた場合
要件を満たしていない期間について減算せずに請求していれば、その差額は過大請求です。気づいた時点で自主的に返すか、指導で指摘されて返すかの違いはありますが、返還の対象になる点は変わりません。
介護保険では、支払を受けたあとに誤りが分かった分は過誤申立で取り下げ、正しい額で請求し直します。手順とタイミングの制約はレセプト返戻の記事と加算の算定漏れの記事で整理しました。過誤は明細書単位で処理されるので、誤っていない分も含めて一度取り下がること、そして過誤調整額が当月請求額を上回ると事業所から国保連へ振り込むことになる点に注意してください。利用者全員に1%が乗る減算なので、対象月数が増えると調整額がまとまった額になります。
10-1. どこまで遡るのかは、原文からは確定できません
老企第36号は起点を「事実が生じた月」とだけ書いており、その月がいつを指すのかを定義していません(→6章)。計画がなかった期間の初日と読むこともできますし、行政が把握した月と読むこともできます。
参考になる材料が1つあります。厚生労働省のQ&A(介護保険最新情報Vol.1345)は、身体拘束廃止未実施減算について、運営指導で把握された事実が発見日より過去の場合の扱いをこう述べています。
過去に遡及して当該減算を適用することはできず、発見した日の属する月が「事実が生じた月」となる。
ただしこれは身体拘束廃止未実施減算についての答えで、同じ扱いが業務継続計画未策定減算・高齢者虐待防止措置未実施減算にも及ぶとは書かれていません。 そもそも訪問看護は身体拘束廃止未実施減算の対象外です(→1章)。同じ考え方が当てはまる可能性はありますが、この記事で断定はしません。過去分の扱いが問題になりそうなら、自主返還の範囲を決める前に指定権者へ確認してください。
10-2. 請求ソフトを直す順番
体制の届出を直しても、請求ソフトの設定を変えなければ請求額は変わりません。順番は4つです。
- 体制設定の画面(「事業所情報」から介護給付費算定に係る体制等の項目に進むソフトが一般的です)を開き、業務継続計画・高齢者虐待防止の区分を変更する
- このとき適用開始年月を、減算が始まる月に合わせる。当月を入れると過去の月には反映されないので、遡って直したい分が直りません
- すでに請求済みの月がある場合は、設定変更だけでは請求データは変わりません。該当月の明細書を作り直し、過誤申立と組み合わせて処理します
- 直したら、明細書のプレビューでサービスコードが減算対応の合成コード(例:訪看Ⅰ2・虐防)に変わっているかを確認する(→2章)
画面名はソフトによって違いますが、探す項目名は体制等状況一覧表と同じ「業務継続計画策定の有無」「高齢者虐待防止措置実施の有無」です。届出の控えとソフトの設定画面を並べて突き合わせるのが確実です。
運営指導では、体制届の内容と実際の書類の突合が行われます。届出が基準型なのに指針が見当たらない、という食い違いは、その場で見つかる型の指摘です。
過誤申立が複数月にまたがると、取り下げと再請求の順序を誤ったときに当月の入金に響きます。対象月が特定できない、件数が多いという段階でしたら、事務代行で状況の整理からお受けします。
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11. 1年の予定に落とす
この2つの減算は、一度整えれば終わりではありません。年1回以上の研修が2種類(BCPと虐待防止)、年1回以上の訓練が1つ、それに委員会の開催と計画の見直しが加わります。要件そのものは多くありませんが、年をまたいで抜けたときに減算という形で表に出ます。
最小構成で回すなら、次の6つを年間の予定表に置いてください。
- 業務継続計画の見直し(感染症・災害の両方)
- 業務継続計画の研修(年1回以上)
- 業務継続計画の訓練・シミュレーション(年1回以上)
- 虐待防止のための委員会(定期的に。回数は指定権者の案内を確認)
- 虐待防止の研修(年1回以上)
- 虐待防止指針と担当者の記載が現状と合っているかの確認
管理者が1人で、看護師が数名という規模のステーションでも、この6つは動かせません。研修は外部の集合研修に出た記録でも、事業所内で資料を配って実施した記録でも構いませんが、計画と実績の両方が文字で残っている必要があります(→9章)。人員に余裕がない事業所ほど、日付を先に押さえておくほうが確実です。
【図版3】年間スケジュール表(4月〜3月の12か月に、研修2種・訓練・委員会・計画見直し・届出確認を配置した記入式のカレンダー)
年に1回しか発生しない作業は、誰の仕事なのかが曖昧なまま流れます。その人が辞めたら、来年の研修記録は誰が作るのか。厚生労働省の調査では、訪問看護ステーション18,042事業所に対して看護職・リハ職以外の「その他の職員」は16,917人です(令和6年10月1日現在)。この区分には事務職員以外も入るので事務職の実数ではありませんが、事務専任を置ける規模の事業所が標準ではないことは読み取れます。管理者が訪問に出ながら請求も体制届も見ている、という構成のほうが普通です。この背景は人手不足対策の記事で扱いました。
減算は、届出を一度直し忘れただけで利用者全員に、しかも解消する月まで効き続けます。国保連から知らせは来ません。いまどちらの区分で届け出ているか、今年度の研修と委員会の記録がどこまで残っているか。この2つを毎月の請求とセットで見る役は、事業所の中に置かなくても成立します。
株式会社ainaruの事務代行は、いまお使いの請求ソフトのまま、月次の請求業務と体制届の管理をまとめてお引き受けします。ソフトの入れ替えは必要ありません。お問い合わせフォームからご相談ください。
この章の出典
- 厚生労働省 老企第25号「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(平成11年9月17日)
- 厚生労働省 老企第36号(令和6年改正版)
- 厚生労働省「令和6年介護サービス施設・事業所調査の概況」
12. よくある質問
BCPの研修が未実施だと、業務継続計画未策定減算になりますか
計画が策定されていれば、この減算はかかりません。研修の未実施は省令第2項の違反であって、減算の算定要件ではないためです(→4章)。ただし運営指導では研修の計画と実績が確認されます。
感染症のBCPだけある場合も減算ですか
減算です。感染症と災害のどちらか一方でも未策定なら対象になります。
虐待防止の担当者は管理者が兼ねてよいですか
条文は「前三号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと」とだけ定めており、誰が就くかの制限は置かれていません。兼務を禁じる記述も確認できませんでした。ただし置いていることがわかる書類は要ります。
虐待防止委員会は年に何回開けばよいですか
条文と解釈通知は「定期的に開催」としか書いておらず、回数は示されていません。訪問系サービスの虐待防止委員会について具体的な回数を定めた原文には到達できませんでした。指定権者が集団指導などで示している場合は、そちらに従ってください(→5章)。
減算になったら、その月の請求はどうしますか
体制等状況一覧表を「減算型」に変更して届け出たうえで、請求ソフトの体制設定を変更します。設定を変えないまま満額で請求すると過大請求になります(→10章)。
減算されると、ケアマネジャーや利用者への連絡は必要ですか
減算は所定単位数を1%下げるものなので、請求する単位数は減ります。区分支給限度基準額の枠には余裕が生まれる方向で、居宅サービス計画の変更が要るような動き方はしません。給付管理票との突合も、正しい単位数で請求していれば問題は起きません。
ただし担当ケアマネジャーが実績を確認するときに前月と単位数が違うことに気づき、問い合わせが来ることはあります。減算に該当している事実を説明できるようにしておいてください。利用者の自己負担は1割から3割とも下がる方向なので苦情になる性質のものではありませんが、重要事項説明書の料金表に単位数を書いている場合は記載の整合を確認しておくと安全です。
管理者が交代しました。何を直せばよいですか
虐待防止の担当者を前の管理者が兼ねていた場合、担当者の記載を新しい管理者名に改める必要があります。辞令、運営規程、委員会の設置要綱など、担当者名が書いてある書類を洗い出してください(→9章)。業務継続計画のほうも、緊急時の連絡網や指揮命令の順位に前任者の名前が残っていれば、計画に従い必要な措置を講じている状態とは言いにくくなります。管理者の変更は指定権者への変更届の対象でもあるので、その届出を出すタイミングで2つ一緒に点検するのが確実です。
サテライトがある場合、BCPは1本でよいですか
サテライトは本体と同じ事業所として指定を受けるので、事業所ごとに別の計画を求められる関係にはありません。ただし業務継続計画を定めた第30条の2第1項は「指定訪問介護事業者は」と事業者に対する義務として書かれている一方、虐待防止の第37条の2は「当該指定訪問介護事業所における」と事業所を主語にしています。条文の書きぶりが揃っていない点は頭に置いたうえで、災害の想定はサテライトの所在地の条件も含めて書いてください。複数の指定を受けている場合の扱いは指定権者に確認を。
令和8年6月の改定で何か変わりましたか
この2つの減算については変わっていません。訪問看護に関わる変更は介護職員等処遇改善加算の新設が中心でした。
この章の出典
- 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)第30条の2・第37条の2
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)」(令和6年5月17日)問7
- 厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」
まとめ
この2つの減算で難しいのは、要件を満たすことではありません。感染症と災害の計画を作る。委員会・指針・研修・担当者を揃える。それを体制届で「基準型」として出す。やること自体は3つで、一度やれば形になります。
難しいのはそのあとです。年に1回しか動かない作業は、誰の仕事なのかが曖昧なまま流れます。研修を担当していた看護師が辞めた年。管理者が交代した年。利用者が増えて手が回らなかった年。そういう年に1本抜けて、翌々年の運営指導で見つかり、遡って過誤調整になる。減算そのものは1%ですが、気づかない期間の長さが、この制度の実質的なコストです。
直した月まで減算されるという6章のルールは、そのことを制度の側からも言っています。速く気づいた事業所ほど損が小さい。年に一度、体制届の控えと研修記録を並べて見る日を決めておく。それだけで、この減算はほぼ避けられます。
この章の出典
確認しきれなかった点
本文に書けるだけの一次資料を確認できなかった項目です。算定できない・要件が存在しないという意味ではありません。
| 項目 | 状況 | 照会がつくまでの運用 |
|---|---|---|
| 「事実が生じた月」がいつを指すか(遡及の範囲) | 老企第36号は起点を「事実が生じた月」とするだけで定義していない。Q&A(Vol.1345)が「発見した日の属する月」とするのは身体拘束廃止未実施減算についての答えで、この2つの減算に及ぶ旨の記載はない(→10-1) | 過去分の自主返還の範囲を決める前に指定権者へ照会する |
| 介護予防訪問看護の適用開始日 | 「令和6年度介護報酬改定の施行時期について」が6月1日施行として挙げるのは「訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション」で、介護予防訪問看護の個別の記載はない | 訪問看護と同じ令和6年6月1日として扱いつつ、遡って月数を数える必要がある場合は指定権者へ照会する |
| 介護予防訪問看護費に対応する告示95号の号番号 | 訪問看護費側は六の二・六の三と特定できたが、介護予防訪問看護費に対応する号番号は今回参照した範囲で表示を確認できず。介護予防側にも両減算が適用されること自体は、指定介護予防サービス等基準(省令35号)第53条の2の2・第53条の10の2と第74条の準用、および介護予防の留意事項通知で確認済み | 介護予防訪問看護でも同じ要件で運用する。号番号を文書で引用する必要がある場合は告示の現行条文を確認する |
| BCPの研修・訓練の頻度がサービス種別で分かれるか | 老企第25号に研修・訓練とも「定期的(年1回以上)」の記述を確認したが、サービス種別による区別を述べた箇所は特定できず。虐待防止の研修については Vol.1345 が訪問看護=年1回以上と明示している(→5-3)ため、こちらは解決済み | BCPの研修・訓練は年1回以上を下限として運用し、指定権者の集団指導資料で確認する |
| 虐待防止委員会の開催回数 | 省令・老企第36号・老企第25号のいずれにも回数の数値が見当たらない(感染症対策の委員会は省令37号第31条第3項第一号に「おおむね六月に一回以上」がある) | 「定期的」を満たす頻度を自事業所で決めて記録し、指定権者の案内があればそれに従う |
| 加算を減算の基礎に含むか | 算定構造上は基本サービス費に対する減算と読めるが、加算を基礎に含むか否かを明示した一文は確認できず | 請求ソフトの計算結果で確認する。判断が要る場合は指定権者へ照会する |
| BCP策定率の「策定中」の割合 | 令和5年度老健事業の図表11・図表13から読み取れる値の合計が100%にならず、選択肢を取りきれていない可能性が残る。「策定完了」「未策定(未着手)」の4つの数値は複数回の読み取りで一致 | 個別数値を使う場合は原典の図表を目視で確認する |
| 両減算の適用事業所数 | 減算の適用件数・事業所数を集計した公表統計は確認できず | 統計としては扱わない |
参考・出典一覧
厚生労働省(告示・省令・通知)
- 「厚生労働大臣が定める基準」(平成27年3月23日 厚生労働省告示第95号)六の二・六の三
- 「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年3月31日 厚生省令第37号)第30条の2・第37条の2・第74条
- 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年3月31日 厚生省令第80号)第21条・第22条の2
- 老企第36号「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の制定に伴う実施上の留意事項について」(令和6年改正版)
- 老企第25号「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(平成11年9月17日)
- 「介護給付費算定に係る体制等に関する届出等における留意点について」(令和8年3月13日 老発0313第5号/令和8年6月1日適用)
- 「介護報酬の算定構造」(令和8年6月改定箇所)
- 「令和6年度介護報酬改定の施行時期について」
- 「令和8年度介護報酬改定について」
- 「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」(令和8年3月10日版)
疑義解釈・調査研究・マニュアル・ひな形
- 「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)」(令和6年5月17日)問7
- 老健局高齢者支援課「高齢者虐待防止措置未実施減算、身体拘束廃止未実施減算の取扱いに係るQ&Aの周知について」(介護保険最新情報Vol.1345・令和7年1月20日)
- 「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画」(ガイドライン・ひな形の配布元)
- 「介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン」
- 「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」
- 「介護保険施設等 運営指導マニュアル」(令和4年3月策定・令和6年7月改訂)
- 「介護保険施設等 運営指導マニュアル 別添 確認項目及び確認文書」
- 社会保障審議会介護給付費分科会「介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業(結果概要)」
- 「令和6年介護サービス施設・事業所調査の概況」
サービスコード
自治体(指定権者の届出案内)