看護師が採れない、という相談は年々重くなっています。求人を出しても応募が来ない、来ても条件が合わない、採用できても数か月で辞めてしまう。
ただ、人手不足を「採用の問題」としてだけ扱うと、対策が求人票の書き直しと給与の引き上げに偏ります。どちらも必要です。それだけでは足りない、というのがこの記事の話です。
この記事では、人手不足への対策を「採る/辞めさせない/看護に戻す」の3つに分けて整理します。数字はすべて公的な調査の原本にあたって確認しました。
全国訪問看護事業協会の令和6年度調査に、こんな数字があります。訪問看護記録の電子化、導入済み83.4%。事務職の雇用、70.9%。負担を軽くする手は、もうひととおり打たれています。
事務まわりで例外は一つだけ。「経理や総務を外注(アウトソーシング)」です。導入済み17.2%。検討したうえで見送った事業所は3.8%しかなく、63.7%は「導入を検討したことはない」と答えています。
人が採れないことが問題なのに、事務の負担を減らす手段は「人を増やす」か「道具を入れる」でほぼ埋まっている。「外に出す」だけが、検討すらされていません。この記事が軸に据えるのはここです。
急ぎの方へ
| いまの状況 | 進む先 |
|---|---|
| まず全体像と現在地を知りたい | 1章 結論 → 2章 どれくらい足りないのか |
| 採用を頑張っているのに埋まらない | 3章 なぜ採用だけでは解けないのか |
| 何から手をつけるか決めたい | 8章 採用の前にできる3つのこと |
| 看護師の時間を増やしたい | 5章 看護に戻す |
| 事務職を雇うか外に出すか迷っている | 6章 雇う vs 外に出す |
| 辞めそうな職員がいる | 7章 定着 |
1. 結論:人手不足は「採る」だけでは解けません
対策は3つに分かれます。
① 採る(採用) — 求人、条件、採用チャネル。最初に思い浮かぶ領域ですが、後述するとおり構造的な限界があります。
② 辞めさせない(定着) — 負担の偏り、夜間対応、管理者の疲弊。採用より即効性があり、採用コストも直接減らします。
③ 看護に戻す(時間の回復) — いま在籍している看護師が、看護以外に使っている時間を減らす。新しく人を採らず、訪問できる時間を増やすやり方です。
このうち③の、事務の負担を減らす選択肢のなかで、手薄なのは「外に出す」だけです。事務職の雇用(70.9%)も記録の電子化(83.4%)も、すでに7〜8割の事業所が導入済み。一方、経理や総務の外注は17.2%にとどまり、63.7%が「導入を検討したことはない」と答えています。
事務職を雇うこと自体は正しい選択で、実際に効きます。ただ、それが使えない事業所があります。常勤1人分の業務量がない。募集しても事務職が来ない。来ても、辞められたらまた最初からやり直し。そういう事業所の次の一手が、そもそも選択肢として意識されていない。ここがこの記事のいちばん大きな分かれ目です。
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2. 訪問看護師はどれくらい足りないのか|データで見る現在地
2-1. 国の需給の数字
厚生労働省が令和8年7月23日の検討会(第4回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会 資料3)に出した資料に、訪問看護の就業者数と需要推計を並べたグラフがあります。
| 訪問看護(万人) | 2017年 | 2020年 | 2023年 | 2025年の需要推計 |
|---|---|---|---|---|
| 就業看護職員数 | 5.0 | 6.8 | 8.7 | 11.3 |
2023年の実績8.7万人に対して、2025年の需要推計は11.3万人。差は2.6万人です。就業者は6年で1.7倍に増えているのに、需要のほうが先を走っています。
ただし、この2.6万人は厚生労働省が書いた数字ではありません。グラフに並んだ2つの値を引き算しただけです。需要推計のほうは2025年を対象に2019年に作られたもので、資料自身が留保をつけています。
2025年に向けた需要推計は、2019年の作成当時の患者の受療率が一貫して変わらないものと仮定して行われたものであり、(略)足下の領域ごとの就業看護職員数と2025年の需要推計値を単純に比較することは困難であるが、病院、有床診療所、精神病院及び無床診療所、訪問看護や介護保険サービス等では、いずれにおいても着実に人材確保が進んでいることが看取できる。
「2.6万人足りない」と「着実に人材確保が進んでいる」が、同じ資料に書かれています。引き算だけを取り出すと、厚生労働省が言っていないことを言うことになります。
そのうえで、同じ資料にはもっと踏み込んだ数字があります。都道府県ごとに、2023年の就業看護職員数を2025年の需要推計で割った比率です。
訪問看護ステーションは、一部を除いて全体的に不足している
全体は0.777
※1.0未満であれば、2023年就業看護職員数は第8次需要推計(2025年対象)に対して不足。
全国で0.777。ここは厚生労働省が「全体的に不足している」と書いています。そして「一部を除いて」とあるとおり、1.0以上の都道府県もあります。足りなさの度合いは地域で違うということです。
2-2. 事業所が「続けられない」理由
全国訪問看護事業協会が令和6年度に実施した調査(対象8,543箇所・回答3,504箇所・回収率41.0%)から。
この調査では、事業所の存続について考えたことがあると答えたのが82.7%、そのうち存続に課題があると答えたのが76.2%でした。以下の割合は、その「課題がある」と答えた事業所の中での割合です(全回答事業所を分母にした数字ではありません)。
| 事業所の存続に関する課題(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 必要な人材が確保できない | 59.6% |
| 職員の負担が増加している | 44.1% |
| 後継者(次期管理者)がいない/育たない | 43.9% |
| 利用者が減少している | 32.4% |
| 収益が減っている | 29.2% |
上位3つのうち2つが人の確保(いまの人材と次の管理者)、1つがいまいる職員の負担。利用者の減少や収益より先に、人と負担が来ています。
同じ協会は、2001年4月から2024年8月までに退会届を出した会員事業所のうち、廃止または休止を理由としていた1,423事業所の退会届も分析しています。上のアンケートとは別の、20年以上ぶんの記録です。廃止と休止で理由は別々に集計されています。まず廃止から。
| 事業所を廃止した理由 | 割合 |
|---|---|
| 従業員確保が困難 | 22.7% |
| 管理者が退職した | 17.6% |
| 利用者が少なく、経営維持が困難 | 14.9% |
1位が「従業員確保が困難」、2位が「管理者が退職した」。利用者が集まらないことより、人が確保できないこと・管理者が抜けることのほうが、事業所を畳む理由として上位に来ています。 休止の理由では順位が変わり、1位は「人員基準に満たなくなった」17.4%。こちらも人員の話です。畳むかたちが違っても、最上位に来るのは利用者でも収益でもありません。
人手不足は「忙しくなる」問題ではなく、事業が続くかどうかの問題として現れます。
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3. なぜ「採用」だけでは解けないのか
採用を否定するつもりはありません。ただ、採用には構造的な上限があります。
3-1. 奪い合う母集団が決まっている
「訪問看護に看護師がいない」と言われますが、実態は少し違います。厚生労働省の調査では、訪問看護ステーションの従事者は令和6年時点で約20万人います。人がまったくいないわけではありません。
問題は受け皿の増え方です。訪問看護ステーションの事業所数は、令和5年の16,423事業所から令和6年は18,042事業所へ、1年で1,619事業所(9.9%)増えました。 同じ人材を分け合う事業所が、毎年1割ペースで増えている。これが「求人を出しても埋まらない」という体感の正体です。
求人票と条件を改善して1人来てもらえたとして、その1人はどこから来たのか。新たにこの世界に入ってきた人でない限り、どこかの事業所が1人失っています。自事業所の採用が成功しても、業界全体の人数は動きません。
事業所が9.9%のペースで増え続けるかぎり、この獲得競争は緩みません。だから採用だけを回し続けると、条件競争のコストが上がり続けます。
3-2. 「採れない理由」が採用の外側にある
日本看護協会が実施した訪問看護実態調査(対象6,000箇所、回答1,879件、有効回収率31.3%、2022年9〜10月実施)に、示唆的な数字があります。
| 夜間・休日対応の課題(抜粋・複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 夜間・休日対応できる看護職員が限られているため負担が偏る | 69.6%(1,308件) |
| 夜間・休日対応がネックとなり看護職員の新規採用が難しい | 36.0%(677件) |
| 看護職員の離職につながってしまう | 30.7%(577件) |
この表は、同調査の「夜間・休日対応とその体制に関する課題」への回答のうち、採用・定着に関わる3つを抜き出したものです。最も回答が多かったのは「看護職員の精神的・身体的負担が大きい」83.5%で、これは7章で扱います。
「採用が難しい」と答えた36.0%の事業所にとって、原因は求人票ではなく夜間・休日対応の体制です。 そして同じ体制が、30.7%の事業所では離職の原因にもなっています。
採用の問題に見えているものが、実は働き方の設計の問題であることがある。ここを直さずに求人だけ出し続ければ、入った人も同じ出口から出ていきます。
この章の出典
- 厚生労働省「令和6年 介護サービス施設・事業所調査の概況」表6 職種別にみた従事者数
- 厚生労働省「令和6年 介護サービス施設・事業所調査の概況」表1 事業所数(対前年 1,619事業所・9.9%増)
- 日本看護協会「2024年度診療報酬・介護報酬改定に向けた訪問看護実態調査 報告書」(2022年9〜10月実施)
4. 打ち手を3つに分けて考える
1章の3分類は、効果が出るまでの時間も限界もそれぞれ違います。
| 打ち手 | 何をするか | 効果が出るまで | 限界 |
|---|---|---|---|
| ① 採る | 求人、採用条件、採用チャネルの見直し | 数か月〜 | 母集団が限られ、条件競争になる |
| ② 辞めさせない | 負担の偏り、夜間対応、管理者の負荷を減らす | 数週間〜数か月 | 体制の設計変更が要る |
| ③ 看護に戻す | 看護以外に使っている時間を減らす | 即時〜数週間 | 何を切り出せるかの見極めが要る |
一般に語られるのは①と②です。採用力の強化、待遇改善、働き方改革、ICT導入。この4点セットはどれも正しく、否定する理由はありません。
ただ、①と②はどちらも人の数を変えにいく対策です。③だけが、人の数を変えずに訪問できる時間を増やします。
仮に看護師1人が事務作業に週5時間使っているとします(この5時間は説明のための仮の数字で、調査値ではありません。 実際の時間は8章の方法で測ってください)。その5時間を戻せば、新しく人を採らなくても手元の時間が増えます。5人いれば週25時間。常勤の所定労働時間を週40時間とすれば、常勤0.6人分程度の時間にあたります。
ただし、戻した時間がそのまま訪問時間になるわけではありません。移動もカンファレンスも記録の確認も時間を食いますし、空いた分だけ訪問枠が埋まる保証もない。それでも「採用しなくても増やせる時間がある」という事実は動きません。
もう一つ。③は今月から始められます。求人を出しても採用まで数か月、体制の設計変更にも時間がかかります。事務の切り分けに、その待ち時間はありません。
この章の出典
- 全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」
- 日本看護協会「2024年度診療報酬・介護報酬改定に向けた訪問看護実態調査 報告書」(2022年9〜10月実施)
5. 【本命】看護師を看護に戻す — 63.7%が「検討したことがない」選択肢
冒頭の数字に戻ります。
全国訪問看護事業協会の令和6年度調査は、「業務の効率化・生産性向上」の取り組み11項目について、それぞれ「導入済み/導入を検討中/過去に検討したが見送った/導入を検討したことはない/無回答」の5区分で聞いています。項目ごとに独立して聞く形式なので、複数を併用している事業所もあります(どれか1つを選ぶ設問ではありません)。まず、導入が進んでいる上位8項目。
| 取り組み(上位8項目) | 導入済み |
|---|---|
| 訪問看護記録の電子化 | 83.4% |
| ICTやe-ラーニングを活用した研修 | 77.1% |
| ICTを活用した会議 | 73.2% |
| 事務職を雇用し、事務処理の負担を軽減 | 70.9% |
| SNS等の活用(他事業所等との連携) | 69.1% |
| タブレット等の貸与 | 66.9% |
| 携帯電話の貸与 | 65.3% |
| 事務処理の負担を軽減するシステムの導入(出退勤管理や経費精算等) | 54.8% |
どれも5〜8割が導入済みです。記録の電子化、研修や会議のICT化、タブレット、事務処理システム、事務職の雇用。「これから取り組むこと」ではなく「だいたい終わっていること」の側にあります。ここに大きな伸びしろは残っていません。
残る3項目は、導入済みが2割に届きません。ここは内訳が大事です。
| 取り組み | 導入済み | 検討中 | 検討したが見送った | 検討したことはない |
|---|---|---|---|---|
| 経理や総務を外注(アウトソーシング) | 17.2% | 4.1% | 3.8% | 63.7% |
| 通信機器を用いた療養相談 | 14.4% | 10.2% | 3.6% | 62.4% |
| 看護補助者の同行 | 13.0% | 4.3% | 7.7% | 66.4% |
※割合はいずれも回答3,504事業所に対するもの。各行の残りは無回答で、原本の図表では無回答を含めて100%になります。
療養相談と看護補助者の同行は、ケアの提供のかたち自体を変える取り組みです。事務の負担に直接効くもの——記録の電子化・事務職の雇用・事務処理システム・外注——に絞ると、「導入を検討したことはない」が多数派なのは外注だけ。検討したうえで見送ったのは、わずか3.8%です。試して合わなかったのではなく、検討の対象にすら入っていない。 見出しの「本命」は、この空白のことです。
一つ、正確に書いておきます。選択肢の文言は「経理や総務を外注」です。レセプトや訪問看護記録といった訪問看護固有の事務の外注については聞かれていません(事務処理システムの項目も、原本の例示は「出退勤管理や経費精算等」。請求事務は出てきません)。つまり訪問看護の本丸の事務を外に出しているかどうかは、この調査からは分かりません。 経理・総務ですら63.7%が未検討なのだから請求事務はさらに手つかずだろう、とは思いますが、それは数字で裏づけられる話ではありません。
5-1. 「雇う」が効かない場面がある
事務職を雇うには前提があります。採用できること。雇い続けられるだけの業務量と収支があること。
ここで効いてくるのが、事業所の規模です。厚生労働省の調査では、訪問看護ステーションの「その他の職員」(事務職員を含む区分)は全国で16,917人、事業所数は18,042。単純に割ると1事業所あたり約0.9人です。この区分には事務職以外も含まれるため、専任の事務職がいる事業所はこれよりさらに少ないことになります。なお、この0.9人は、従事者数(詳細票)と事業所数(基本票)という集計の異なる数値を割った概算であって、調査に「1事業所あたりの事務職員数」として掲載されている数値ではありません。
うかがえるのは、事務が「専任1人」ではなく、管理者や看護師が兼務しているか、パートが部分的に担っている事業所が相当数あるという姿です。そこに1人分の固定費を足せるか。簡単な判断ではありません。
仮に採用できても、その事務職が辞めたら元通りです。人を雇うという解決は、人が辞めるリスクと常にセットになっています。
5-2. 何を切り出せるのかを先に見る
「外注」と聞くと大がかりに感じますが、実際には業務を切り分けて一部だけ出すのが現実的です。
訪問看護の事務のうち、比較的切り出しやすいのは次のような領域です。
- レセプト(医療保険・介護保険)の作成・点検、実績の入力・突合
- 返戻・過誤が出たときの原因確認と再請求の事務
- 加算の算定要件のチェック(取りこぼしの確認)
- 記録・書類の電子化、様式への入力、保存管理
逆に、外に出せない部分もはっきりしています。訪問看護計画書・報告書は「看護師等(准看護師を除く)が作成する」と省令に定めがあり(医療保険は「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」第17条、介護保険は「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」第70条)、看護記録も訪問した看護師等が記載します。内容の判断そのものは事業所に残ります。
新規利用の立ち上げにともなう算定判断(初回加算の(Ⅰ)(Ⅱ)の見極めや過去2月の確認など)も、外に出しやすい事務のひとつです。詳しくは初回加算の記事にまとめています。
退院直後の利用者についても同様です。指導日(退院日)と算定日(初回訪問日)がずれる退院支援指導加算の判断は、日付の突合という点で事務に出しやすい部類です。
開設の段階から事務を外に出すという選択もあります。雇う・兼務する・委託するの判断材料は訪問看護の開業と事務・請求体制の記事に公的統計だけで並べました。
事務が抱える加算管理の全体量は、訪問看護の加算一覧・早見表を見ると把握しやすくなります。
この線引きは制度で決まっている部分なので、感覚で決めずに確認してから進めるべきところです。どこまでが事務でどこからが専門職の判断なのかは「訪問看護の書類作成代行はどこまで可能か|事務と判断の線引き」に整理しています。
5-3. 事務は「減らす」だけでなく「取り戻す」効果もある
事務の切り分けには、時間のほかにもう一つ効果が出ることがあります。取りこぼしていた収入です。
加算の算定は、体制の届出、利用者の状態変化の把握、月次の請求チェックがかみ合って初めて正しく回ります。担当者の記憶で毎月さばいていれば、どこかで漏れます。しかも算定漏れは、返戻と違って通知が来ません。自分で見つけない限り、なかったことになったままです。
漏れに気づいたときに遡れる期間と手順は「訪問看護の加算算定漏れ|遡及請求の期限は医療5年・介護2年」にまとめています。人手不足の対策として始めた事務の見直しが、結果として収入面の点検を兼ねることがあります。
この章の出典
- 全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」
- 厚生労働省「令和6年 介護サービス施設・事業所調査の概況」表6 職種別にみた従事者数
- 厚生労働省「令和6年 介護サービス施設・事業所調査の概況」表1 事業所数
6. 事務職を1人雇う vs 外に出す — 判断の分かれ目
どちらが正解、と決まっているわけではありません。答えは事業所の状況次第です。ここに置くのは、判断に使う費目の一覧だけ。
金額はあえて書きません。給与水準は地域と経験で幅があり、一次情報として使える統計を特定できなかったからです。数字は自事業所の実額で埋めてください。
| 比べる項目 | 事務職を雇う | 外に出す |
|---|---|---|
| 費用の性質 | 固定費(業務量が減っても発生) | 変動費になりやすい(契約による) |
| 人件費以外にかかるもの | 採用コスト、社会保険料、教育の時間 | 委託費、社内の窓口担当の時間 |
| 立ち上がり | 採用〜教育で数か月 | 比較的短いことが多い(引き継ぎは要る) |
| 繁閑への対応 | 忙しい月も暇な月も同じ費用 | 業務量に連動させやすい |
| 辞めるリスク | あり。辞めると振り出しに戻る | 委託先の変更で対応(引き継ぎコストは発生) |
| ノウハウの蓄積 | 社内に残る | 社内に残りにくい |
| 最終責任 | 事業所 | 事業所(委託しても請求の責任は残る) |
判断のポイントは3つ。
① 業務量が1人分あるか。 週に数時間の事務のために常勤を雇うと、固定費が過剰になります。毎日フルタイムで発生しているなら、雇ったほうが安定します。
② その人が辞めたら、請求は誰が締めるのか。 事務が1人に集中している事業所では、その人の退職で業務が止まります。2章で見たとおり、事業所を廃止した理由の2位は「管理者が退職した」。属人化は、人手が薄い事業所ほど致命傷になります。
③ ノウハウを社内に残す必要があるか。 請求業務の知識を社内に蓄積したいなら雇用、業務を回すこと自体が目的なら外注、という分け方ができます。
そして、どちらを選んでも請求内容の最終責任は事業所に残ります。 外に出せば責任もなくなる、という関係ではありません。
どちらが向くかは、自事業所の事務量を測ってからのほうが判断を誤りません。測り方と切り分けの手順は8章にまとめました。外注する場合にどこまで委ねられるかの制度上の線引きは、書類作成代行の記事に整理しています。外注先の種類ごとの守備範囲や、雇用と外注のコストを実額で比べる手順は、訪問看護の事務外注|外注できる範囲とコスト比較・選び方にまとめました。
この章の出典
7. 辞めさせない — 負担の偏りと管理者の消耗
採用より先に手をつけるべきなのが定着です。1人辞めれば、補充の採用コストと教育の時間が両方かかります。
3章で見た日本看護協会の調査(回答1,879件、複数回答)で、夜間・休日対応の課題として最も多く挙がったのは「看護職員の精神的・身体的負担が大きい」で83.5%。次いで「夜間・休日対応できる看護職員が限られているため負担が偏る」が69.6%でした。
この2つは別の問題です。負担が重いこと。その負担が特定の人に寄っていること。前者に要るのは総量を減らすことで、後者に要るのは担い手を広げることです。片方だけ手当てしても、もう片方は残ります。
そして、その偏りが30.7%の事業所で離職につながっていると回答されています。負担の偏りは、放置すると人が減り、人が減るとさらに偏る。この循環に入ると加速度的に悪化します。
では実際に何%が辞めているのか。訪問看護に限った離職率の全国調査は、公的にも業界団体にも見当たりませんでした。日本看護協会の「病院看護実態調査」は名前のとおり病院が対象で、厚生労働省の検討会資料が引く離職率もこれに依拠しています。訪問看護の数字は国レベルでは公表されていません。
都道府県の調査ならあります。神奈川県が令和6年度に県内1,173事業所を対象に行った調査(回答813事業所・回収率69.3%)では、常勤と非常勤を合わせた離職率が18.8%、前年比2.1ポイント増でした。常勤が18.4%、非常勤が19.5%です。1県の数字なので全国に広げて読むことはできませんが、上がっていることは押さえておく価値があります。
もう一つ、見落とされやすいのが管理者の消耗です。2章で見たとおり、事業所を廃止した理由では「管理者が退職した」が17.6%と2位に入っていました。管理者は、訪問しながら、シフトを組み、請求をまとめ、加算の要件を確認し、実地指導に備え、採用面接もします。現場業務と管理業務とバックオフィスがひとりに乗る——5章で見た「事務職はならして1事業所0.9人」という数字は、この兼務の裏返しでもあります。
運営指導への備えの整え方はこちらの記事で解説しています。
管理者が抜けると、事業所ごと畳まれることがある。その数字が出ている以上、管理者の業務のうち何を外せるかは人手不足対策の中心にあります。話は5章・6章とつながっています。
この章の出典
- 日本看護協会「2024年度診療報酬・介護報酬改定に向けた訪問看護実態調査 報告書」(2022年9〜10月実施)
- 全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」
8. 何から手をつけるか — 採用の前にできる3つのこと
タイトルに掲げた「採用の前にできる3つのこと」は、この章の①〜③です。効果が出るまでの時間が短い順に並べると、こうなります。
① まず測る。 看護師と管理者が「看護以外」に何時間使っているかを、1〜2週間だけ記録します。レセプト、記録の入力、書類の作成、電話対応、シフト調整。測らないと何を切り出せるか判断できませんし、感覚の「事務が忙しい」からは対策が出てきません。
② 次に切り分ける。 測った結果を、専門職の判断が必要なものとそうでないものに分けます。計画書の内容を決めるのは前者。決まった内容を様式に入力するのは後者。外に出したり事務職に任せたりできるのは、後者だけです。
③ 並行して、偏りを可視化する。 夜間・休日対応が誰に集中しているかを一覧にします。7割の事業所で偏りが起きている以上、自事業所も例外ではない可能性が高い。誰かが黙って耐えている状態を、数字で見えるようにします。
④ そのうえで採用を考える。 ①〜③をやらずに採用だけを進めると、採った人が同じ負担構造に入って、同じ理由で辞めます。順番が逆だと、採用コストが回収できません。
要は、「人を増やす」より先に「いまいる人の時間を取り戻す」。採用が要らなくなるわけではなく、採用が効くようになるための土台づくりです。
事務の切り分けや請求業務の外部委託について、どこまでを事務として巻き取れるか、どこからを事業所に残すべきかの整理からご相談に応じています。
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9. よくある質問
Q. 人手不足の対策として、まず何をすべきですか?
まず測ることです。看護師と管理者が「看護以外」に使っている時間を、1〜2週間記録してください。何を切り出せるかは、その後に見えてきます。
Q. 事務職を雇うのと外に出すのは、どちらがよいですか?
事業所の状況によります。業務量が常勤1人分あってノウハウを社内に残したいなら雇用。業務量に波があって固定費を増やしたくないなら外注。どちらを選んでも、請求内容の最終責任は事業所に残ります(判断の分かれ目は6章に)。
Q. 訪問看護の事務は、どこまで外に出せますか?
レセプト作成・実績入力・返戻対応などの事務は外部に委ねる余地があります。一方、訪問看護計画書・報告書は「看護師等(准看護師を除く)が作成する」と省令に定めがあり、内容の判断は事業所に残ります。詳しくは書類代行の記事で整理しています。
Q. 夜間・休日対応の負担が特定の職員に偏っています。よくあることですか?
日本看護協会の調査(2022年9〜10月実施、回答1,879件・複数回答)では、回答した事業所の69.6%が「夜間・休日対応できる看護職員が限られているため負担が偏る」と答えています。最も多かったのは「看護職員の精神的・身体的負担が大きい」83.5%で、負担そのものの重さと偏りが並んで挙がっています。同じ調査で30.7%が離職につながると回答しています。
Q. 人手不足で事業所を続けられなくなることはありますか?
全国訪問看護事業協会が、2001年4月〜2024年8月に退会届を出した会員事業所のうち廃止・休止を理由とした1,423事業所を分析しています。このうち事業所を廃止した理由は「従業員確保が困難」が22.7%で1位、「管理者が退職した」が17.6%で2位でした。利用者が集まらないこと(14.9%)より上位です。休止の理由は別集計で、1位は「人員基準に満たなくなった」17.4%です。
Q. 事務を外部に委託している事業所は、どのくらいありますか?
全国訪問看護事業協会の令和6年度調査では「経理や総務を外注(アウトソーシング)」を導入済みが17.2%、「導入を検討したことはない」が63.7%でした。なお、この設問はレセプトなど訪問看護固有の事務の外注を対象としたものではないため、請求業務の委託状況はこの調査からは分かりません。
Q. 事務を見直すと、収入面でも効果がありますか?
あります。代表例は加算の算定漏れの発見です。算定漏れは返戻と違って通知が来ないため、チェックの仕組みがないと気づけません。遡って請求できる期限は医療保険5年・介護保険2年です。
この章の出典
- 全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」
- 日本看護協会「2024年度診療報酬・介護報酬改定に向けた訪問看護実態調査 報告書」(2022年9〜10月実施)
10. まとめ
人手不足への対策は「採る/辞めさせない/看護に戻す」の3つに分かれます。調査で見るかぎり最も手薄なのは3つ目、そのなかでも「外に出す」でした。記録の電子化83.4%、事務職の雇用70.9%と導入が進んだ一方で、経理や総務の外注は導入済み17.2%。63.7%は「導入を検討したことはない」と答えており、6割超の事業所にとって、比較すらしていない選択肢としてここに残っています。
採用をやめる話ではありません。ただ、事業所数は1年で9.9%増えており、同じ人材を分け合う競争は当面緩みません。しかも36.0%の事業所が、夜間・休日対応がネックで新規採用が難しいと答えています。採れない理由の一部は、採用活動の外側にある。負担の重さ(83.5%)と偏り(69.6%)を放置したまま採っても、30.7%の事業所が答えたとおり離職につながります。
だから、順番です。まず測る。次に切り分ける。偏りを見えるようにする。そのうえで採る。廃止の理由は1位「従業員確保が困難」22.7%、2位「管理者が退職した」17.6%で、利用者が集まらないこと(14.9%)より上でした。この記事が「採用の前に」と言う理由は、この並びにあります。
この章の出典
- 全国訪問看護事業協会「訪問看護の持続可能なサービス提供のあり方と役割に関する調査研究事業 報告書」
- 日本看護協会「2024年度診療報酬・介護報酬改定に向けた訪問看護実態調査 報告書」(2022年9〜10月実施)
ご利用にあたって
本記事は2026年8月時点で公開されている公的な調査報告書にあたって作成しています。そのうえで、次の4点にご留意ください。
引用した調査には実施時期と対象範囲があります。 全国訪問看護事業協会の調査は令和6年度実施(対象8,543箇所・回答3,504箇所・回収率41.0%)で、対象は同協会の会員事業所です。日本看護協会の調査は2022年9月21日〜10月31日実施(対象6,000箇所・回答1,879件・有効回収率31.3%)です。いずれも回答した事業所の中での割合であり、全国の全事業所を母集団とした悉皆調査ではありません。会員事業所を対象とした調査は、非会員を含む全体とは傾向が異なる可能性があります。
割合の分母は設問ごとに異なります。 2章の「存続に関する課題」は、存続について考えたことがあり(82.7%)かつ課題があると答えた(76.2%)事業所を分母とした割合です。廃止・休止の理由は、令和6年度のアンケートではなく、2001年4月〜2024年8月の退会届(廃止・休止を理由とした1,423事業所)を対象とした別の分析で、廃止の理由と休止の理由は別々に集計されています。本文では設問ごとに分母を明記しています。
記載に誤りが含まれている可能性があります。 報告書の原本にあたって確認していますが、読み取りを誤っている箇所があるかもしれません。数値は原本でご確認ください。
制度に関わる部分は改定で変わります。 本記事で触れた書類の作成主体や加算の遡及期限は、記事公開時点の制度に基づくものです。詳細は各記事および原本でご確認ください。